大陰唇 Labium majus pudendi

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J0796 (女性の骨盤臓器、左側の骨盤壁を除去:左側からの図)

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J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)

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J0800 (女性の外部性器:女性外陰部)

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J0806 (女性の会陰筋:下から見た図)

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J0973 (女性の会陰の神経:下方からの図)

解剖学的特徴

大陰唇(labium majus pudendi)は女性外性器の最外側に位置する左右一対の皮膚の隆起で、発生学的には男性の陰嚢に相同です(Moore et al., 2018)。胎生期において、生殖隆起から発達し、性別分化の過程で男性ではこの構造が陰嚢となり、女性では大陰唇となります(Larsen, 2015)。この相同性は、両構造が同一の胚性組織に由来することを示しており、発生異常の理解に重要です。

解剖学的には皮下脂肪組織が豊富で、その内部には大陰唇脂肪体(corpus adiposum labii majoris)と呼ばれる脂肪組織と結合組織が存在し、弾力性と保護機能を提供しています。大陰唇脂肪体は、頬脂肪体と同様の構造を持ち、機械的緩衝作用を果たします(Standring, 2020)。表面の皮膚は重層扁平上皮で覆われ、色素沈着により浅黒く、思春期以降は陰毛(恥毛)に覆われています。外側面は通常の体表皮膚と同様の構造を持ちますが、内側面は粘膜に近い性質を持ち、より薄く、色素沈着が強い傾向にあります(Fritsch and Hoepner, 2019)。皮膚には皮脂腺、汗腺(エクリン腺およびアポクリン腺)が豊富に分布しており、局所の湿潤環境の維持に寄与しています(Standring, 2020)。

位置関係と機能

大陰唇は前方で恥骨結合の前下方にある恥丘(mons pubis)に連続し、後方では会陰に移行します。左右の大陰唇は正中で癒合せず分かれており、その間の縦に走る裂隙を陰裂(rima pudendi)と呼びます(Drake et al., 2019)。前方では左右の大陰唇が前交連(commissura labiorum anterior)で接近し、後方では後交連(commissura labiorum posterior)を形成します。ただし、後交連は常に明瞭ではなく、個人差が大きいことが知られています(Standring, 2020)。

大陰唇の内側には小陰唇が存在し、大陰唇は外部からの物理的刺激や微生物の侵入から内側の繊細な組織(小陰唇、陰核、膣前庭)を保護する役割を果たしています。また、性的興奮時には血管充血により大陰唇が腫脹し、陰裂が開大することで、性交を容易にする機能も有しています(Masters and Johnson, 1966; Puppo, 2013)。

神経血管支配

血管支配は複雑で、前方は外腸骨動脈の枝である浅外陰部動脈(superficial external pudendal artery)から、後方は内陰部動脈(internal pudendal artery)の枝である後陰唇動脈(posterior labial artery)から供給を受けます(Netter, 2018; Standring, 2020)。静脈は同名の静脈を経て、前方は大伏在静脈、後方は内陰部静脈に還流します。リンパ管は主に浅鼠径リンパ節(特に上内側群)に流入し、さらに深鼠径リンパ節、外腸骨リンパ節へと流れます(Levanon et al., 2019)。この経路は外陰癌のリンパ節転移を考える上で臨床的に重要です。

神経支配は、前方は腸骨鼠径神経(ilioinguinal nerve)の前陰唇枝(anterior labial branches)、後方は陰部神経(pudendal nerve)の後陰唇枝(posterior labial branches)によって行われています(Standring, 2020)。これらの神経は体性感覚を伝達し、大陰唇の触覚、圧覚、痛覚、温度覚を司ります。また、自律神経線維も分布しており、血管運動や分泌腺の調節に関与しています(Puppo, 2013)。

臨床的意義

感染性疾患

大陰唇には多様な感染性病変が発生します。バルトリン腺嚢胞および膿瘍は、大陰唇後方に位置するバルトリン腺の導管閉塞により生じ、疼痛を伴う腫脹として現れます。起因菌は多岐にわたり、Escherichia coliStaphylococcus aureus、淋菌、クラミジアなどが報告されています(Omole et al., 2003)。治療は切開排膿、造袋術(marsupialization)、またはWord catheterの留置が選択されます(Hoffman et al., 2016)。外陰部毛嚢炎、癤、蜂窩織炎も一般的で、特に剃毛後に発症リスクが高まります(Patel and Rompalo, 2015)。

腫瘍性病変

良性腫瘍としては、脂肪腫、線維腫、表皮嚢腫などが大陰唇に発生します(Hoffman et al., 2016)。悪性腫瘍では、外陰扁平上皮癌が最も多く、高齢女性に好発します。外陰癌は全女性生殖器癌の約4%を占め、大陰唇はその好発部位の一つです(Rogers and Cuello, 2018)。前癌病変として、外陰上皮内腫瘍(VIN)が重要で、HPV関連型と非HPV関連型(分化型VIN)に分類されます(Bornstein et al., 2016)。治療は外科的切除が基本ですが、進行例では化学療法や放射線療法が併用されます。

炎症性疾患

外陰部湿疹、接触性皮膚炎、硬化性苔癬(lichen sclerosus)などの炎症性疾患が大陰唇に生じます(Hoffman et al., 2016)。硬化性苔癬は外陰部に好発する慢性炎症性疾患で、掻痒感と皮膚の白色萎縮を特徴とし、長期的には扁平上皮癌への進展リスクがあります(Cooper and Wojnarowska, 2006)。治療には強力な局所ステロイド外用が推奨されます。

分娩時の変化

分娩時には大陰唇が著明に伸展し、胎児の通過を可能にします。会陰裂傷は分娩時の一般的な合併症で、大陰唇を含む会陰体組織の損傷を生じます(Hoffman et al., 2016)。会陰切開を行う際、大陰唇は重要な解剖学的指標となり、適切な切開線の決定に用いられます。