腟の尿道隆起 Carina urethralis vaginae

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J0800 (女性の外部性器:女性外陰部)

定義と解剖学的位置

腟の尿道隆起(Carina urethralis vaginae)は、女性の尿生殖器系における解剖学的構造で、腟前壁の下部に存在する縦方向の隆起です。この構造は、尿道口の直下に位置し、腟前庭と尿道の間の組織隆起またはヒダとして観察されます(Standring, 2020)。

組織学的特徴

解剖学的には、この隆起は粘膜下の線維筋性組織によって形成され、尿道括約筋と密接に関連しています。組織学的には重層扁平上皮で覆われており、その下には豊富な血管網と弾性線維を含む結合組織が存在します(Moore et al., 2018)。上皮層の厚さは約200-300μmで、基底層から表層に向かって扁平化する典型的な重層扁平上皮の構造を示します(Standring, 2020)。粘膜固有層には多数の静脈叢が存在し、勃起組織様の機能を有することが示唆されています(DeLancey, 2010)。また、この領域には感覚神経終末が豊富に分布しており、触覚および痛覚の受容に重要な役割を果たしています(Cardozo and Staskin, 2017)。

臨床的意義

臨床的意義としては、尿道隆起は女性の尿道症候群や性交痛の診断時に重要な指標となります(Baggish and Karram, 2016)。また、この部位は尿道憩室や尿道カルンクルなどの病変が発生することがあり、炎症が生じると疼痛や排尿障害の原因となることがあります。婦人科診察において、尿道隆起の腫大や圧痛は尿路感染症や他の泌尿生殖器疾患の兆候として評価されます(Cardozo and Staskin, 2017)。

尿道カルンクルは閉経後女性に好発し、尿道口周囲の粘膜が脱出して形成される良性病変で、尿道隆起の異常として認識されることがあります(Rovner, 2018)。また、尿道憩室は腟前壁に触知可能な腫瘤として認識され、尿道隆起の異常な膨隆として発見されることがあります(Lee et al., 2015)。

画像診断においては、経腟超音波検査やMRI検査により、尿道隆起の構造的異常や周囲組織との関係を詳細に評価することが可能です(Fielding, 2012)。特にMRIでは、T2強調画像で尿道周囲の解剖学的構造を明瞭に描出できるため、病変の評価に有用です(Nitti, 2013)。

臨床的関連性

骨盤底筋障害や加齢に伴う組織弾力性の低下により、この部位の支持機能が低下すると、尿道下垂や尿失禁に関連することもあります(DeLancey, 2010)。産科領域では、分娩時に尿道隆起部分が損傷を受けることがあり、後の尿路機能障害のリスク要因となることが報告されています(Dietz and Lanzarone, 2005)。

特に、経腟分娩時には恥骨尿道靭帯や尿道周囲の支持組織が過伸展され、尿道隆起を含む前腟壁の支持機能が損なわれる可能性があります(Ashton-Miller and DeLancey, 2007)。この損傷は腹圧性尿失禁の発症リスクを有意に増加させることが疫学研究で示されています(Handa et al., 2011)。

外科的治療においては、腹圧性尿失禁に対する中部尿道スリング手術(TVT、TOTなど)では、尿道隆起の位置と構造を正確に把握することが手術成績に影響します(Ulmsten et al., 1996)。また、骨盤臓器脱の修復術においても、前腟壁の支持構造の再建には尿道隆起周囲の解剖学的理解が不可欠です(Maher et al., 2013)。

参考文献