子宮 Uterus
子宮は女性生殖器系の中心的器官であり、解剖学的および臨床的に重要な特徴を持っています (Moore et al., 2018):
解剖学的特徴
- 位置: 骨盤腔の中央に位置し、膀胱と直腸の間に存在します。正常位置では前傾前屈の状態にあります (Standring, 2020)。
- 形状と大きさ: 倒立した西洋梨型で、上部の広い子宮体部と下部の細い子宮頸部に分けられます。非妊娠時の大きさは約7-8cm×5cm×2.5cmで重さは約40-60gです (Tortora and Derrickson, 2017)。
- 構造: 子宮壁は3層構造を持ちます (Gray and Williams, 2019):
- 漿膜層(外側): 腹膜に覆われた最外層
- 筋層(中間): 平滑筋繊維が複雑に配列した厚い層で、子宮の主要部分
- 粘膜層(内側): 子宮内膜と呼ばれ、月経周期に応じて厚さが変化
- 血管支配: 主に子宮動脈(内腸骨動脈の分枝)と卵巣動脈(腹部大動脈から直接分岐)から血液供給を受けます。静脈は子宮静脈叢を形成し、内腸骨静脈に流入します (Netter, 2019)。
- 神経支配: 自律神経系(交感神経と副交感神経)により支配され、骨盤神経叢からの枝が分布しています (Ellis and Mahadevan, 2018)。
生理学的機能
- 受精卵の着床: 子宮内膜は受精卵が着床するための適切な環境を提供します (Hall, 2021)。
- 胎児の発育: 妊娠中、子宮は胎児の成長に合わせて著しく拡大し、満期では約1000倍にまで大きくなります (Cunningham et al., 2018)。
- 月経: 非妊娠時には月経周期に伴って子宮内膜が剥離し、月経として排出されます (Johnson, 2020)。
- 分娩: 子宮筋層の強力な収縮により胎児を娩出します (Blackburn, 2018)。
臨床的意義
- 一般的な病態 (Kumar et al., 2018):
- 子宮筋腫: 子宮平滑筋から発生する良性腫瘍で、過多月経や骨盤痛の原因となります。
- 子宮内膜症: 子宮内膜組織が子宮外に存在し、疼痛や不妊の原因となります。
- 子宮頸癌: HPV感染が主な原因で、定期的な検診が重要です。
- 子宮体癌: 閉経後女性に多く、不正出血が主症状です。
- 画像診断: 超音波検査、MRI、CT等で評価可能です。特に経腟超音波検査は子宮の状態を詳細に観察できます (Rumack et al., 2018)。
- 加齢変化: 閉経後は卵巣ホルモン分泌の低下により子宮が萎縮します (Fritz and Speroff, 2019)。
子宮は生殖における中心的役割だけでなく、女性の全身健康とも密接に関連しています。ホルモンバランスの変化や病的状態は全身症状として現れることがあり、総合的な診療アプローチが必要です (Beckmann et al., 2022)。
参考文献
- Beckmann, C.R.B., Ling, F.W., Herbert, W.N.P., Laube, D.W., Smith, R.P., Casanova, R., Chuang, A., Goepfert, A.R., Hueppchen, N.A. and Weiss, P.M. (2022) 『Obstetrics and Gynecology』 - 産科学と婦人科学の臨床実践に関する包括的なテキスト