正中臍索 Ligamentum umbilicale medianum

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J0772 (膀胱、表面の筋層を取り除き拡張:後上方からの図)

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J0774 (男性の膀胱、適度に拡張され開放された:前方からの図)

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J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)

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J0807 (恥骨前立腺靭帯:上後方からの図)

1. 解剖学的特徴

正中臍索は、膀胱の頂点(膀胱頂、apex vesicae)から臍(umbilicus)まで腹膜後部を上行する繊維性の索構造である(Standring, 2020)。この構造は、胎児期に存在した尿膜管(urachus)の遺残物であり、出生後に線維化して索状構造となったものである。解剖学的には、下腹壁正中に位置し、腹膜に覆われて正中臍ヒダ(plica umbilicalis mediana)を形成する。正中臍索の長さは通常3〜10cmで、直径は3〜10mm程度である(Moore et al., 2019)。周囲には内側臍ヒダ(plica umbilicalis medialis)と外側臍ヒダ(plica umbilicalis lateralis)が存在し、これらとともに腹膜の表面構造を形成している。

2. 組織学的構造

組織学的には、正中臍索は主に密性結合組織からなり、膠原線維が主体である(Standring, 2020)。時に平滑筋線維の残存や尿膜管上皮の残存細胞が含まれることがある。これらの上皮細胞は移行上皮または円柱上皮の性質を示し、尿膜管の不完全閉鎖の証拠となる(Netter, 2018)。血管供給は上膀胱動脈(arteria vesicalis superior)の小枝から受けており、静脈還流は下腹壁静脈系を介して行われる(Moore et al., 2019)。

3. 胎生学的背景

胎生学的には、尿膜管は胎生期第3週頃に形成され、膀胱と尿膜(allantois)をつなぐ管状構造として発達する(Moore et al., 2019)。胎児期には、膀胱と臍帯をつなぎ、初期の排泄機能に関与していた。通常、妊娠第4〜5ヶ月頃から尿膜管の閉鎖が始まり、出生前後には完全に閉鎖して繊維性の索状構造となる(Standring, 2020)。この閉鎖過程は、上皮細胞のアポトーシスと結合組織の増殖によって進行する。正常な発達過程で管腔は完全に消失し、正中臍索として残存する。

4. 臨床的意義

臨床的には、尿膜管の完全閉鎖不全により様々な先天異常が生じる可能性がある(Ashley et al., 2021)。尿膜管遺残(patent urachus)では、膀胱から臍まで管腔が開存しており、臍からの尿漏出を呈する。尿膜管嚢胞(urachal cyst)は、尿膜管の中間部が閉鎖不全を起こし、嚢胞を形成したものである。尿膜管瘻(urachal fistula)は、部分的な開存により膀胱と臍、または膀胱と腹壁の間に瘻孔を形成する(Netter, 2018)。これらの異常は感染や腹痛の原因となり、時に外科的切除が必要となる。

特に成人では、尿膜管癌(urachal carcinoma)の発生部位として重要である(Ashley et al., 2021)。尿膜管癌は膀胱癌全体の0.5〜2%を占める稀な腫瘍であるが、診断時には進行していることが多く予後不良である。腹部正中下部の腫瘤、血尿、臍からの粘液性または血性の排液がある場合は尿膜管病変を疑う必要がある。画像診断では、CTやMRIで正中臍索の肥厚や腫瘤性病変として描出される(Standring, 2020)。

外科手術においては、正中臍索は腹部正中切開を行う際の重要な解剖学的指標となる(Moore et al., 2019)。下腹部正中切開では、正中臍索を同定することで正確な正中線を確認でき、腹膜腔への安全なアプローチが可能となる。また、腹腔鏡手術では、正中臍索は膀胱頂部の位置を確認するランドマークとして利用される(Netter, 2018)。

5. 参考文献

東洋医学との関連性