胸膜頂 Cupula pleurae

J0685 (食道と気管とその周囲:前方からの図)

J0757 (12歳少年の胸部臓器:前方からの図)

J0758 (右の胸腔と縦隔、肺および胸膜の除去:右側からの図)

J0759 (左の胸腔と縦隔、肺および胸膜の除去:左側からの図)

J0923 (頚部の右迷走神経:右側からの図)
胸膜頂(頚胸膜、Cupula pleurae)は、肺尖部を覆う壁側胸膜の円蓋状の上端部であり、第1肋骨の上縁より約2-3cm上方、第7頚椎の高さまで伸展する(Gray and Carter, 2021; Standring, 2023)。この構造は頚部から胸腔への移行部に位置し、肺尖を保護するとともに、周囲の神経血管構造との重要な解剖学的関係を形成している(Moore et al., 2022)。胸膜頂は内胸筋膜(Sibson筋膜)によって補強され、構造的安定性が保たれている(Ellis et al., 2022; Standring, 2023)。
解剖学的特徴
- 頚動脈鞘、腕神経叢(特にC8およびT1神経根)、鎖骨下動脈および鎖骨下静脈と密接な位置関係にあり、これらの構造は胸膜頂の前内側を走行する(Moore et al., 2022; Netter, 2023)。
- 前斜角筋、中斜角筋、および第1肋骨によって支持され、これらの筋群は胸膜頂の機械的安定性に寄与している(Standring, 2023; Tubbs et al., 2021)。
- 星状神経節(頚胸神経節)が胸膜頂の後外側、第1肋骨頚部の前方に位置し、交感神経支配において重要な役割を果たしている(Netter, 2023; Moore et al., 2022)。
- 胸膜頂は壁側胸膜の一部であり、内胸筋膜(Sibson筋膜)によって補強されているが、この部位は胸膜の中でも比較的脆弱な領域である(Ellis et al., 2022; Standring, 2023)。
- 胸管は左側の胸膜頂の内側を上行し、第7頚椎の高さで静脈角に注ぐため、左側の胸膜頂周囲の手術では特に注意が必要である(Tubbs et al., 2021; Skandalakis et al., 2024)。
臨床的意義
- 胸部手術(特に肺尖部切除術や胸腔鏡手術)や頚部手術(鎖骨下血管へのアプローチ)時の重要なランドマークとなり、医原性損傷を避けるために正確な解剖学的知識が求められる(Skandalakis et al., 2024; Moore et al., 2022)。
- 気胸(特に自然気胸)や胸膜炎の際に影響を受けやすい部位であり、肺尖部の胸膜ブレブやブラの破綻により気胸が発生しやすい(Kaplowitz and Morris, 2022; Hansell et al., 2023)。
- 肺尖部腫瘍(Pancoast腫瘍)の進展経路として重要であり、腫瘍は胸膜頂を介して腕神経叢、鎖骨下血管、交感神経幹へ浸潤し、Horner症候群や肩・上肢の痛みを引き起こす(Kumar and Abbas, 2023; Hansell et al., 2023)。
- 胸管損傷のリスクが高い領域であり、特に左側の頚部・鎖骨下領域の手術では乳糜胸のリスクを考慮する必要がある(Tubbs et al., 2021; Skandalakis et al., 2024)。
- 硬膜外麻酔、腕神経叢ブロック(特に斜角筋間アプローチ)、鎖骨下静脈穿刺などの施行時に考慮すべき解剖学的構造であり、気胸の合併症予防のために胸膜頂の位置を認識することが重要である(Miller et al., 2022; Moore et al., 2022)。
- 頚肋や第1肋骨の解剖学的異常は胸膜頂の位置を変化させ、胸郭出口症候群の病態に関与することがある(Tubbs et al., 2021; Standring, 2023)。
病理学的考察
- 結核性胸膜炎は胸膜頂に好発し、肺尖部の換気不良と局所的な免疫応答の特性により、しばしば肺尖部に石灰化病変や線維化を残す(Hansell et al., 2023; Kumar and Abbas, 2023)。
- 胸膜頂の線維化や胸膜肥厚は肺尖部の拘束性変化をもたらし、肺活量の低下や換気障害の原因となることがある(Müller and Silva, 2021; Hansell et al., 2023)。
- 頚部・縦隔への放射線治療後に胸膜頂の線維化が生じることがあり、治療後数ヶ月から数年で進行性の胸膜肥厚として現れる(Choi et al., 2022; Hansell et al., 2023)。