胸膜

胸膜は肺を覆い、胸膜腔の壁を支える薄く透明な膜です。胸腔は胸郭内の空間で、腹部の腹腔に対応します。心臓を含む縦隔と肺が胸腔の大部分を占めていますが、肺や縦隔と胸壁の間にはわずかな空間があり、これが胸膜腔です。胸膜腔は縦隔によって左右に分けられ、少量の漿液が含まれています。胸膜腔の存在により、肺の表面は胸壁から自由に動くことができます。

肺や縦隔の表面を覆う膜は胸膜で、その表面は一層の細胞からなる中皮で覆われています。その下には結合組織層である胸内筋膜があります。肺を覆う胸膜を肺胸膜、胸壁の内面を覆う部分を壁側胸膜、縦隔胸膜腔の面を覆う部分を縦隔胸膜、横隔膜の上部を覆う部分を横隔胸膜と呼びます。肋骨の胸膜腔面を覆う部分を肋骨胸膜といい、胸膜腔の上端の円蓋状の部分を胸膜頂と呼びます。

この部分の胸内筋膜はやや厚く、胸膜上膜と呼ばれます。また、横隔胸膜部の胸内筋膜を横隔胸膜筋膜と呼びます。胸膜の折り返しで生じる狭い空間を胸膜洞といい、横隔膜の外側下方で横隔胸膜が壁側胸膜に折り返してできる部分を肋骨横隔洞、前胸壁の壁側胸膜が縦隔胸膜に折り返してできる部分を肋骨縦隔洞と呼びます。肺門部から下方で肺胸膜が縦隔胸膜に移行する部分を特に肺間膜と呼びます。

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

胸膜

石川(1934)は成人24体,胎児132体の解剖体について胸膜の広がりと骨の位置関係を詳細に検討している(図163).

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図163 成人前胸壁における胸膜の広がりの諸変異(石川, 1934)

図163 成人前胸壁における胸膜の広がりの諸変異

A: 前正中線で左右の胸膜腔が接触する B: 左右の胸膜が胸骨縁に留まる C: 左の胸膜縁に心臓に対応した切痕が見られる D: 右の胸膜が前正中線を超えて左方に張り出す