1. 解剖学的特徴
左主気管支は、気管分岐部(carina)から左肺門に向かって斜め下方に走行する気道である。右主気管支と比較して、長さは約5cm(右は約2.5cm)とより長く、内径はやや細い(約10-12mm)(Standring, 2021)。また、左主気管支は右主気管支よりも水平に近い角度(約40-50度)で分岐するため、誤嚥物が左気管支に入りにくい解剖学的特徴がある(Moore et al., 2018)。
2. 位置関係
解剖学的位置関係として、左主気管支の前方には肺動脈、上方には大動脈弓が位置し、後方には食道と胸部下行大動脈が隣接している(Drake et al., 2020)。また、左反回神経が大動脈弓の下を回って気管食道溝を上行する際に左主気管支の近傍を走行する(Netter, 2019)。
3. 組織学
組織学的には、軟骨輪(不完全なC字型)と平滑筋、線毛上皮で構成され、粘液線毛クリアランス機構により気道の防御機能を担っている(Young et al., 2020)。気道上皮は主に線毛を持つ円柱上皮からなり、気道内の異物や微生物を排除する機能を有している(Eroschenko, 2019)。
4. 臨床的意義
臨床的には、左主気管支の狭窄や閉塞は無気肺や肺炎の原因となる(Kumar et al., 2021)。また、気管支鏡検査、気管支内異物除去、気管支肺胞洗浄などの処置の際に重要な解剖学的ランドマークとなる。腫瘍や縦隔リンパ節腫大による圧迫では、左主気管支の狭窄を引き起こすことがある(Senanayake et al., 2018)。
5. 画像診断学的特徴
CT、MRI、気管支鏡検査などで左主気管支の形態や病変を評価することができる。特に冠状断CTでは左主気管支の走行や周囲構造との関係が明瞭に描出される(Naidich et al., 2019)。また、3D再構成画像は気道の立体的構造理解に有用である(McLoud, 2022)。
6. 発生学
発生学的には、左主気管支は前腸から発生し、胚子期の5-6週頃に気管から左右の気管支芽として分岐し始める(Sadler, 2023)。その後、気管支芽は繰り返し分岐して気管支樹を形成していく過程で左主気管支の基本的構造が確立される(Schoenwolf et al., 2021)。
参考文献