気管

気管は、喉頭の下から第6頚椎の位置で始まり、前方に垂直に下降して第4頚椎の前で左右の気管支に分岐します。この分岐部を気管分岐部と呼びます。気管分岐部を気管支鏡で上から見ると、左右の気管支を隔てる高まりが見られ、これを気管竜骨と呼びます。気管壁には、一定の間隔をおいて重なる硝子軟骨性の気管軟骨の輪があり、これらは輪状靱帯で連結されています。気管軟骨は15~20個存在し、幅は3~4mmです。気管軟骨は完全な輪ではなく、馬蹄形を呈し、全周の4/5~2/3を占めます。支柱のない部分は正中部後壁を形成し、膜性壁と呼ばれます。この膜性壁には平滑筋(気管筋)が含まれています。気管の内面は多列絨毛円柱上皮で覆われ、絨毛の運動方向は上向きです。粘膜固有層には多くの弾性線維が存在し、粘膜下組織には胞状の混合腺(気管腺)が多く含まれます。日本人の気管の長さはおおよそ10cmです。

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

(1)気管の計測値

成人になるまで、気管の長さと容積は年齢と共に増大します。気管の長さは身長と相関があります(星野・松本、1982)。気管断面の形態は個体により異なりますが、前後径と左右径の比率は平均で0.89±0.28であり、「rounded型」と呼ばれる形状をしています(瀧ら、1982)。

(2)気管軟骨

川上・滝沢(1974)による詳細な報告がありますが、気管壁には16-20本の軟骨輪が存在します。軟骨間隙には帯状の間隙と楕円形あるいは水滴形の間隙があります。軟骨輪の数と幅、軟骨間隙の形状は、加齢によって変化しません。しかし、加齢とともに帯状の間隙は広がり、楕円形あるいは水滴形の間隙は左右非対称性を増します。また、軟骨輪の厚さも増加します。

(3)気管の異常

血管変異を伴う位置異常(舟波ら、1992)や漏斗胸に伴う位置異常(岩中ら、1982)が報告されています。

先天的な気管狭窄についての日本の報告では、膜様部の欠損、重複大動脈弓や動脈管索による血管の圧迫、気管軟骨輪の軟化などが原因とされています(山登・菊池、1982: 山登, 1987)。また、肺動脈拡張を引き起こす左右短絡性の心疾患や肺動脈弁欠損も原因となることがあります(伊藤、1985)。これらの問題は全て乳幼児期に発見されます。

気管の欠損や無形成については、日本で10例以上が報告されています(図86) (谷村・榊原、1965 ; 平元ら、1985 ; 山登, 1987 ;神谷ら、1991)。全ての例で、気管は分岐部を除いて欠落し、瘻孔から気管分岐部と食道が接続し、食道を通じて呼吸を維持していましたが、新生児期に死亡しました。瘻孔にも気管軟骨の形成が見られることがあります。舌、喉頭、咽頭、食道は正常に形成されていますが、心血管奇形をしばしば合併します。

上葉気管支の一部または全部が気管から直接分岐する変異を気管気管支と呼びます(山登, 1987)。

これは、肺の分葉異常を伴う気管支分岐異常の一種です。

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図86 気管の無形成の諸型(神谷ら, 1991)

図86 気管の無形成の諸型