喉頭小嚢 Sacculus laryngis

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J0739 (内側の喉頭筋:右側からの図)

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J0746 (喉頭の前部を通る前向きの切断図)

解剖学的特徴

喉頭小嚢は、喉頭に存在する小さな盲端状の構造物であり、喉頭室(ventriculus laryngis)の前上外側部から上方へ突出しています(Gray and Lewis, 2020; Standring, 2021)。この構造は、仮声帯(vestibular fold、false vocal cord)と真声帯(vocal fold、true vocal cord)の間に位置する喉頭室から起始し、甲状軟骨(thyroid cartilage)と甲状舌骨膜(thyrohyoid membrane)の間を上行します。

解剖学的位置関係としては、喉頭小嚢は甲状軟骨板の内側を走行し、時に甲状舌骨膜を超えて頸部軟部組織内まで伸展することがあります。成人における長さは通常約10mm程度ですが、個人差が大きく、一部の個体ではより長く伸展します(Standring, 2021)。

組織学的構造

喉頭小嚢の内腔は重層扁平上皮と線毛円柱上皮の混在により被覆されており、粘膜下層には60〜70個程度の混合腺(粘液腺および漿液腺)が密集しています(Mescher, 2018)。これらの腺組織から分泌される粘液は、発声時および嚥下時における声帯の潤滑機能を担い、声帯粘膜の保護と振動の円滑化に寄与します。

Hirano and Bless(2018)の研究により、この分泌物が声帯上皮の機械的保護において重要な役割を果たすことが示されており、発声における生理学的意義が明らかにされています。

臨床的意義

喉頭小嚢に関連する主要な病態として、喉頭小嚢嚢胞(laryngeal saccular cyst)および喉頭気嚢症(laryngocele)が挙げられます(Bailey et al., 2019)。

喉頭小嚢嚢胞は、小嚢開口部の閉塞により腺分泌物が貯留することで形成される嚢胞性病変であり、発声障害(dysphonia)や呼吸困難(dyspnea)を引き起こす可能性があります。

喉頭気嚢症は、喉頭小嚢の異常拡張により生じる病態で、内型(internal laryngocele)、外型(external laryngocele)、混合型(mixed laryngocele)に分類されます。この病態は、吹奏楽器奏者、声楽家、ガラス吹き職人など、声門下圧の反復的上昇を伴う職業において好発します(Lucioni et al., 2022)。重症例では気道閉塞のリスクがあり、外科的切除が必要となることがあります。

参考文献