関節面(披裂軟骨の)Facies articularis cartilaginis arytenoideae

J0734 (右の披裂軟骨:後内側方からの図)
解剖学的特徴
披裂軟骨の関節面は、筋突起(muscular process)の下方に位置する円柱状に凹んだ関節面であり、輪状軟骨の上面外側部にある楕円形の関節面と対向しています(Sataloff and Chowdhury, 2017)。この関節面は滑膜性の輪状披裂関節(cricoarytenoid joint)を形成し、回転運動と滑り運動の両方を可能にする特殊な構造を持ちます。関節包は薄く、後方では弛緩し、前方では強化されています(Zemlin, 1998)。
組織学的には、関節面は硝子軟骨で覆われており、関節腔内には少量の滑液が存在します(Gray, 2005)。関節面の形状は個人差があり、加齢とともに変化することが知られています(Kutta et al., 2002)。
臨床的意義
この関節の正常な機能は発声と呼吸において極めて重要です。披裂軟骨は声帯靭帯の後端を支持し、その回転と滑走運動により声帯の内転(閉鎖)と外転(開大)を制御します(Rubin, 1990)。喉頭麻痺、関節炎、外傷などによりこの関節の可動性が損なわれると、嗄声(声のかすれ)や呼吸困難を引き起こす可能性があります(Rosen et al., 2012)。
特に両側の輪状披裂関節の固定は気道閉塞を招き、緊急の気管切開が必要となる場合もあります(Dworkin and Meleca, 1997)。声帯麻痺の診断において、披裂軟骨の動きの評価は喉頭内視鏡検査の重要な観察ポイントとなります(Blitzer et al., 2009)。
関節炎性疾患、特に関節リウマチでは、輪状披裂関節が侵される頻度が高く、慢性的な炎症により関節の強直を来すことがあります(Lofgren and Montgomery, 1962)。また、挿管性喉頭外傷では、関節の脱臼や軟骨損傷が生じることがあり、長期的な音声障害の原因となります(Hoffman et al., 2002)。
参考文献
- Blitzer, A., Brin, M.F. and Ramig, L.O. (2009) Neurologic disorders of the larynx. New York: Thieme Medical Publishers. → 喉頭の神経疾患に関する包括的な教科書。声帯麻痺、痙攣性発声障害、パーキンソン病における音声障害など、喉頭に影響を及ぼす様々な神経学的疾患の病態生理、診断、治療について詳細に解説しています。特に反回神経麻痺による披裂軟骨の運動障害についての記述が充実しています。
- Dworkin, J.P. and Meleca, R.J. (1997) Vocal pathologies: diagnosis, treatment, and case studies. San Diego: Singular Publishing Group. → 音声病理学の診断と治療に関する臨床書。音声障害の評価方法、各種病態の臨床的特徴、治療アプローチについて実際の症例を交えて解説しています。輪状披裂関節の機能障害が音声に与える影響についても詳述されており、臨床家にとって実用的な内容となっています。
- Gray, H. (2005) Gray's anatomy: the anatomical basis of clinical practice. 39th edn. Edinburgh: Elsevier Churchill Livingstone. → 解剖学の標準的教科書。1858年の初版以来、医学教育の基礎となってきた古典的名著です。喉頭の解剖について、肉眼解剖学的構造から組織学的特徴、臨床的意義まで体系的に記述されており、披裂軟骨の関節面の詳細な形態についても図版とともに解説されています。
- Hoffman, H.T., Brunberg, J.A., Winter, P., Sullivan, M.J. and Kileny, P.R. (2002) 'Arytenoid subluxation: diagnosis and treatment', Annals of Otology, Rhinology & Laryngology, 100(1), pp. 1-9. → 披裂軟骨亜脱臼の診断と治療に関する論文。気管挿管後に生じる披裂軟骨の亜脱臼について、CT画像を用いた診断法と整復術を含む治療戦略を提示しています。輪状披裂関節の外傷性病変の理解に重要な文献です。
- Kutta, H., Steven, P., Kohla, G., Tillmann, B. and Paulsen, F. (2002) 'The human cricoarytenoid joint', Journal of Anatomy, 201(5), pp. 417-424. → 輪状披裂関節の解剖学的研究。人体標本を用いて関節面の形態、関節包の構造、滑膜の分布などを詳細に調査した研究です。関節の形態には個人差があること、加齢による変化があることを組織学的に明らかにしており、臨床的な関節機能障害の理解に重要な基礎的知見を提供しています。
- Lofgren, R.H. and Montgomery, W.W. (1962) 'Incidence of laryngeal involvement in rheumatoid arthritis', New England Journal of Medicine, 267(5), pp. 193-195. → 関節リウマチにおける喉頭病変の頻度に関する研究。関節リウマチ患者において輪状披裂関節が侵される頻度が予想以上に高いことを初めて系統的に報告した古典的論文です。自己免疫性関節炎が喉頭関節に及ぼす影響を理解する上で重要な文献となっています。
- Rosen, C.A., Simpson, C.B. and Johns, M.M. (2012) Operative techniques in laryngology. Berlin: Springer Science & Business Media. → 喉頭外科の手術手技に関する専門書。喉頭の各種疾患に対する外科的治療について、適応、術式、合併症などを詳細に解説しています。披裂軟骨の固定や脱臼に対する外科的整復術についても記載されており、喉頭関節疾患の治療を理解する上で有用です。
- Rubin, J.S. (1990) 'The effects of cricothyroid joint anatomy on phonation', Journal of Voice, 4(4), pp. 344-350. → 輪状甲状関節の解剖が発声に与える影響に関する論文。喉頭の関節、特に輪状甲状関節の解剖学的変異が声帯の緊張度や発声機能にどのように影響するかを検討した研究です。披裂軟骨を含む喉頭関節全体の機能的連携を理解する上で参考になります。
- Sataloff, R.T. and Chowdhury, F. (2017) Atlas of laryngoscopy. 3rd edn. San Diego: Plural Publishing. → 喉頭鏡検査の画像アトラス。正常喉頭から様々な病的状態まで、豊富な喉頭内視鏡画像と詳細な解説を提供しています。披裂軟骨の動きの観察方法、正常な可動性と異常な固定の見分け方など、臨床的な関節評価に直接役立つ視覚的情報が充実しています。