麦粒軟骨 Cartilago triticea

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J0736 (喉頭とその靭帯:後方からの図)

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J0738 (喉頭筋:右側からの図)

1. 解剖学的特徴

麦粒軟骨(Cartilago triticea)は、甲状舌骨靭帯(Ligamentum thyrohyoideum)の後方部分、特に甲状舌骨膜の外側縁に位置する小さな弾性軟骨である(Janfaza et al., 2011)。その名称は、ラテン語の「triticum(小麦)」に由来し、形状が小麦粒に類似していることから命名された。通常、長径約3〜7mm、短径約2〜4mmの楕円形または円形の構造を呈する(Alqahtani et al., 2019)。

2. 位置関係

解剖学的には、舌骨大角と甲状軟骨上角の間に位置し、甲状舌骨膜の肥厚部である甲状舌骨靭帯内に埋め込まれている(Standring, 2020)。左右対称に存在することが一般的であるが、Ahmad et al. (2005) によると、時に非対称であったり、片側のみに存在したり、または完全に欠如していることもある。

3. 組織学的特徴

組織学的には弾性軟骨から構成され、加齢とともに石灰化または骨化する傾向がある(Carter, 2008)。この骨化は、特に中年以降の成人でよく観察される。Mescher (2018) の研究では、50歳以上の約40%に何らかの石灰化が認められることが報告されている。

4. 臨床的意義

頸部のX線撮影やCT検査において偶発的に発見されることが多く、石灰化した麦粒軟骨が甲状動脈の石灰化や異物と誤認されることがある(Ajmani, 1990)。また、超音波検査において甲状腺結節や頸部リンパ節と混同されることもあるため、解剖学的知識に基づいた正確な鑑別診断が重要である(Watanabe et al., 2012)。

稀に、麦粒軟骨の肥大や異常な石灰化が周囲組織を圧迫し、嚥下困難や違和感を引き起こすケースも報告されている(Hatakeyama et al., 2019)。頸部手術、特に甲状腺手術や頸動脈内膜剥離術の際には、この構造物の存在を認識しておくことが術中の誤認を防ぐために有用である(Lee et al., 2015)。

参考文献