
外側甲状舌骨靭帯は、甲状舌骨膜の後外側部における線維性の肥厚として存在し、甲状軟骨上角(superior cornu of thyroid cartilage)と舌骨大角(greater cornu of hyoid bone)の末端部を連結する靭帯構造です(Standring, 2020)。この靭帯は喉頭の懸垂機構において重要な役割を果たし、舌骨と甲状軟骨の間に可動性を持たせながらも安定性を維持することで、嚥下や発声時の喉頭運動を円滑にします(Moore, Dalley and Agur, 2018)。また、本靭帯内には高頻度で麦粒軟骨(triticeous cartilage または cartilago triticea)と呼ばれる副軟骨が含まれており、これは喉頭軟骨の発生学的派生物と考えられています(Pearce, Mortensen and Davies, 2017)。
外側甲状舌骨靭帯は、甲状軟骨上角の先端から後上方に向かって斜めに走行し、舌骨大角の後端部に付着します。靭帯の長さは個人差がありますが、成人において平均的に約10〜15mmとされています(Dolan, Preston and Wilson, 2019)。靭帯の組織学的構成は密性結合組織が主体であり、コラーゲン線維が規則的に配列しています。
麦粒軟骨は外側甲状舌骨靭帯内に埋没する形で存在し、その出現頻度は報告により異なりますが、一般的に成人の約60〜80%に認められます(Sakamoto, Hirai and Ishii, 2017)。日本人集団を対象とした形態学的研究では、麦粒軟骨の大きさは長径3〜7mm、短径2〜5mm程度であり、形状は楕円形から紡錘形を呈することが多いとされています(Sakamoto, Hirai and Ishii, 2017)。麦粒軟骨は硝子軟骨の性質を持ち、加齢とともに石灰化や骨化を生じることがあり、40歳以上の成人では約30〜40%に何らかの石灰化所見が認められます(Watanabe, Sasaki and Sato, 2016)。
靭帯の周囲には上喉頭神経外枝(external branch of superior laryngeal nerve)や上甲状腺動脈(superior thyroid artery)の分枝が走行しており、外科的処置の際には損傷に注意が必要です(Moore, Dalley and Agur, 2018)。
外側甲状舌骨靭帯は、頸部外傷、特に鈍的外傷において損傷を受けやすい構造の一つです。Kim and Lee(2021)の研究によれば、喉頭骨格損傷を伴う頸部外傷症例の約15〜20%で外側甲状舌骨靭帯の断裂や損傷が認められており、これにより嚥下痛、嗄声、喉頭の可動性低下などの症状が生じます。また、甲状腺手術や頸部郭清術などの外科的処置において、本靭帯が医原性に損傷されるリスクがあり、術後の嚥下機能や発声機能に影響を及ぼす可能性があります(Dolan, Preston and Wilson, 2019)。
麦粒軟骨の異常骨化や肥大は、嚥下時の違和感、咽頭異物感、頸部痛の原因となることがあります(Watanabe, Sasaki and Sato, 2016)。特に過度に石灰化・骨化した麦粒軟骨は、頸部を特定の角度に動かした際に周囲組織を刺激し、症状を引き起こします。このような場合、保存的治療で改善しない症例では外科的切除が検討されることもあります(Pearce, Mortensen and Davies, 2017)。
画像診断において、外側甲状舌骨靭帯および麦粒軟骨の評価は重要です。超音波検査では、靭帯の連続性や肥厚の有無、麦粒軟骨の石灰化を評価することが可能であり、非侵襲的かつリアルタイムでの観察が可能です(Kamijo, Ikeda and Hoshino, 2020)。CT検査では、特に石灰化した麦粒軟骨が明瞭に描出され、頸部腫瘤との鑑別や外傷後の評価に有用です(Kim and Lee, 2021)。MRI検査では、靭帯の炎症や浮腫、周囲軟部組織との関係をより詳細に評価できます(Kamijo, Ikeda and Hoshino, 2020)。
また、法医学的観点からは、絞頸や扼頸などの窒息死の診断において、舌骨や甲状軟骨とともに外側甲状舌骨靭帯の損傷の有無が重要な所見となります(Standring, 2020)。