外鼻孔 Nares

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J0636 (口部とその周囲:正面からの図)

1. 解剖学的特徴

外鼻孔は、鼻腔が外界と交通する前方への開口部であり、鼻翼(ala nasi)と鼻中隔(septum nasi)によって境界づけられています(Standring, 2020)。各外鼻孔は卵円形を呈し、その長軸は一般的に垂直よりもわずかに外側に傾いています。両側の外鼻孔は鼻中隔軟骨(cartilago septi nasi)の前方部分である鼻柱(columna nasi)によって分けられています(Drake et al., 2020)。

外鼻孔の形態学的特徴には顕著な個人差があり、人種的特徴を反映することがあります(Moore et al., 2018)。鼻翼軟骨(alar cartilage)は外鼻孔の形状維持に重要な役割を果たし、その構造的完全性が気道の開存性に直接影響します(Netter, 2019)。鼻前庭(vestibulum nasi)は外鼻孔から約1.5〜2.0 cm内側に位置し、ここが外鼻と内鼻腔の移行部となっています(Agur and Dalley, 2021)。

2. 組織学的構造

外鼻孔の入り口部分は角化重層扁平上皮(stratified squamous keratinized epithelium)に覆われており、これは外界からの物理的・化学的刺激に対する第一の防御線として機能します(Mescher, 2021)。鼻腔内部に進むにつれて、この上皮は徐々に非角化重層扁平上皮を経て、線毛円柱上皮(ciliated columnar epithelium)に移行します(Kierszenbaum and Tres, 2020)。

この移行部には多数の鼻毛(vibrissae)が存在し、吸気中の大きな粒子(直径10 μm以上)を濾過する役割を果たしています(Junqueira and Carneiro, 2019)。鼻毛は硬毛の一種であり、その毛包周囲には豊富な感覚神経終末が分布し、異物侵入時にくしゃみ反射を誘発します(Ross and Pawlina, 2020)。

鼻前庭には皮脂腺(sebaceous glands)も存在し、鼻孔周囲の皮膚を潤す働きがあります。また、この領域には汗腺も分布しており、局所的な温度調節と湿度維持に寄与しています(Young et al., 2022)。Junqueira and Carneiro(2019)は、この移行部における上皮の特性が呼吸器系の防御機構として重要であると指摘しています。特に、線毛上皮への移行部では杯細胞(goblet cells)の数が増加し、粘液分泌による異物捕捉機能が強化されます(Gartner and Hiatt, 2021)。

3. 発生学

発生過程では、胎生4週頃に前脳の腹側に神経堤由来の外胚葉が肥厚して鼻板(nasal placode)を形成します(Schoenwolf et al., 2021)。この鼻板が陥没して鼻窩(nasal pit)となり、これがさらに深くなって鼻胞(nasal sac)を形成します(Sadler, 2019)。この鼻窩ないし鼻胞が外界と交通する開口部が原始的な外鼻孔です。

発生の進行に伴い、鼻窩の底部と口腔原基との間の組織が薄くなり、胎生6週頃に破裂して一次的な鼻腔と口腔の交通が成立します(Moore et al., 2020)。その後、二次口蓋の形成により、外鼻孔は一時的に上皮性の膜(上皮詮または鼻詮、bucconasal membrane)によって閉鎖されます(Carlson, 2019)。この膜は胎生6ヶ月頃に消失し、外鼻孔は再び開口します。

Sadler(2019)によれば、この過程の異常が先天性の鼻孔閉鎖(congenital choanal atresia)を引き起こす可能性があります。特に、鼻詮の遺残や二次口蓋の形成異常は、前鼻孔閉鎖症や後鼻孔閉鎖症の原因となります(Larsen, 2021)。また、鼻突起の融合不全は裂鼻(nasal cleft)などの顔面奇形を引き起こすことがあります(Langman et al., 2019)。

4. 臨床的意義

外鼻孔の狭窄または閉塞は、先天的異常(前鼻孔閉鎖症、anterior choanal atresia)や外傷、感染、腫瘍などによって生じることがあり、呼吸困難や嗅覚障害の原因となります(Bailey, 2018)。新生児の場合、鼻詮の遺残により呼吸困難を生じることがあり、新生児は主に鼻呼吸を行うため、緊急の処置が必要となる場合があります(Flint et al., 2022)。

慢性的な鼻炎や鼻アレルギーにより鼻粘膜の腫脹が生じ、外鼻孔からの通気が阻害されることもあります。特にアレルギー性鼻炎では、肥満細胞の脱顆粒によるヒスタミン放出が血管透過性亢進と粘膜浮腫を引き起こし、鼻閉の主要な原因となります(Cummings et al., 2021)。Flint et al.(2022)は、外鼻孔の解剖学的変異が鼻閉感や睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome, OSAS)に影響を与える可能性を示唆しています。

鼻翼虚脱(nasal alar collapse)は、吸気時に鼻翼が内側に引き込まれる現象で、鼻翼軟骨の脆弱性や外傷後の瘢痕化によって生じます(Papel et al., 2020)。この状態は運動時や深呼吸時に著明となり、患者のQOLを著しく低下させます(Behrbohm et al., 2019)。

外鼻孔周囲の感染症として、鼻前庭炎(vestibulitis)や鼻癤(nasal furuncle)があります。特に鼻癤は黄色ブドウ球菌感染によることが多く、顔面の危険三角帯(dangerous triangle of the face)に位置するため、海綿静脈洞血栓症などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります(Shah and Rallis, 2021)。

5. 比較解剖学