鼻軟骨 Cartilagines nasi
鼻軟骨は、柔軟性に富む透明軟骨(ヒアリン軟骨)で構成され、鼻の外形と構造的支持を提供します(Gray et al., 2020)。これらの軟骨は発生学的には頭蓋の内軟骨性骨化から派生し、成人になっても軟骨のまま残ります(Sadler, 2018)。解剖学的に以下の5つの主要な軟骨から構成されています:
- 鼻中隔軟骨(Cartilago septi nasi):四角形の平板状軟骨で、鼻腔を左右に分ける中隔の前部を形成します。上縁は篩骨垂直板と結合し、後下縁は鋤骨と接合します。前上縁は鼻骨と、前下縁は上顎骨の鼻稜と結合します(Standring, 2021)。厚さは約3〜4mmで、年齢とともに石灰化が進行することがあります。
- 外側鼻軟骨(Cartilago nasi lateralis):左右一対の三角形状の軟骨で、鼻骨の下方に位置します。上縁は鼻骨と、内側縁は鼻中隔軟骨と結合して鼻背の上部を形成します。下縁は線維性組織を介して大鼻翼軟骨と連結しています。この移行部は「scroll領域」と呼ばれ、鼻弁機能に重要な役割を果たします(Kim et al., 2019)。
- 大鼻翼軟骨(Cartilago alaris major):C字型またはU字型の弾性のある軟骨で、鼻孔の形状を決定します。内側脚(crus mediale)と外側脚(crus laterale)に分かれ、内側脚は対側のものと隣接して鼻柱(columella)を形成します。外側脚は鼻翼の縁に沿って走行し、鼻翼の形状と強度を維持します。脚間角度(inter-crural angle)は鼻尖の突出度を決定する重要な要素です(Daniel, 2018)。
- 小鼻翼軟骨(Cartilagines alares minores):2〜3個の不規則な形状の小さな軟骨片で、大鼻翼軟骨の外側に位置します。これらは大鼻翼軟骨と梨状口縁(piriform aperture)との間に存在し、鼻翼の側方支持を補強します(Rohrich and Ghavami, 2009)。個人差が大きく、時に欠如していることもあります。
- 副鼻軟骨(Cartilagines nasales accessoriae):鼻翼軟骨とも呼ばれ、外側鼻軟骨と大鼻翼軟骨の間に位置する小さな軟骨片群です。これらは鼻翼の形成に関与し、外側鼻壁の構造的完全性を維持します。数と大きさは個人によって異なります(Letourneau and Daniel, 2016)。
これらの軟骨はいずれも骨膜様の結合組織である軟骨膜(perichondrium)に覆われており、軟骨同士は線維性結合組織を介して連結しています(Moore et al., 2022)。鼻軟骨の血液供給は顔面動脈と眼窩下動脈からの分枝によって行われ、知覚神経支配は三叉神経第2枝の眼窩下神経と外鼻神経によって担われています(Standring, 2021)。
臨床的意義
鼻中隔彎曲症:鼻中隔彎曲症(nasal septum deviation)は人口の約80%に見られ、重度の場合は鼻閉や慢性副鼻腔炎の原因となります(Bhattacharyya, 2010)。鼻中隔矯正術(septoplasty)では変形した軟骨を切除または再配置します。
外傷と変形:外傷性鼻変形では、特に鼻中隔血腫は早期に排液しないと軟骨壊死を引き起こし、鞍鼻変形につながります(Ondik et al., 2009)。
鼻形成術:鼻形成術(rhinoplasty)においては、鼻軟骨の解剖学的構造と力学的特性を理解することが不可欠です。軟骨移植(cartilage grafting)では、鼻中隔軟骨、耳介軟骨、または肋軟骨を用いて鼻の構造を再建します(Toriumi and Johnson, 2014)。
加齢変化:加齢変化として、軟骨の弾性低下と支持組織の弱化により鼻尖下垂(nasal tip ptosis)や鼻弁狭窄が生じることがあります(Rohrich et al., 2016)。
先天異常:先天異常(口唇口蓋裂など)に伴う鼻変形の修正や、腫瘍切除後の再建においても鼻軟骨の詳細な解剖学的知識が要求されます(Wong et al., 2014)。
参考文献
- Bhattacharyya, N. (2010). 'Clinical presentation, diagnosis, and treatment of nasal obstruction', Otolaryngologic Clinics of North America, 43(2), pp. 457-473. - 鼻閉の臨床症状、診断、治療に関する包括的レビュー。
- Daniel, R.K. (2018). Mastering Rhinoplasty: A Comprehensive Atlas of Surgical Techniques. Springer. - 鼻形成術の技術と解剖学的考察を詳細に解説した専門書。
- Gray, H., Standring, S., Anand, N., Birch, R., Collins, P., Crossman, A.R., Gleeson, M., Jawaheer, G., Smith, A.L., Spratt, J.D., Stringer, M.D., Tubbs, S.R., Tunstall, R., Wein, A.J. and Wigley, C.B. (2020). Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 42nd edn. Elsevier. - 臨床医学の基礎となる詳細な人体解剖学書。
- Kim, J.H., Jung, D.J., Kim, H.S., Kim, C.H. and Kim, J.K. (2019). 'Analysis of the development of the nasal septum and measurement of the harvestable septal cartilage in Koreans using three-dimensional facial bone computed tomography scanning', Archives of Plastic Surgery, 46(4), pp. 321-327. - 韓国人における鼻中隔の発達と採取可能な中隔軟骨の測定に関する研究。
- Letourneau, A. and Daniel, R.K. (2016). 'The superficial musculoaponeurotic system of the nose', Plastic and Reconstructive Surgery, 131(1), pp. 32-41. - 鼻のSMAS(表在性筋膜系)についての詳細な解剖学的研究。