膵臓は上腹部と左下肋部に位置し、第1および第2腰椎の高さにあります。成人では長さが14~18cm、重さが65~100gの細長い三角稜柱形で、頭部は十二指腸のC字形弯曲部に囲まれています。頭部には総胆管と膵管が貫通しているため、臨床医学的に重要です。
膵臓は外分泌腺であり、腸に膵液を分泌します。また、内分泌器官としてインスリンとグルカゴンを分泌します(ランゲルハンス島)。膵液には食物の三大要素(タンパク質、デンプン、脂肪)を分解する酵素が含まれており、インスリンとグルカゴンは糖代謝を調節します。
膵臓は頭部の下方左側から上腸間膜動静脈の後方へ伸びる鈎状突起、左側へ徐々に細くなりながら下大静脈および腹大動脈の上を覆い、脾臓に向かって伸びる体部、そして膵臓と接する尾部に分けられます。"Pancreas"の"pan"は全体、"creas"は肉を意味するギリシャ語で、全体が肉質であることを示します。漢方医学ではこの臓器は知られておらず、肉を集めるという意味から「膵」の字が作られました。宇田川玄真が『医範提綱』(1805年)で初めてこの国字を公表しました。
さらに、膵臓を分泌する松果腺は約15cmの細長い臓器で、第1~2腰椎の高さに位置し、後腹壁に接しています。前面のみ腹膜に覆われており(腹膜後器官)、膵頭は十二指腸に囲まれ、錐体は第2腰椎の前面に位置し、膵尾は脾臓に接します。膵臓は消化腺(外分泌腺)の機能の他に、内分泌部(ランゲルハンス島)も持っています。動脈分布は上膵十二指腸動脈(腹腔動脈の末梢枝)と下膵十二指腸動脈(上腸間膜動脈の末梢枝)です。
日本人のからだ(村上 弦 2000)によると
(1)計測値
膵の前後長(厚さ)については、CT画像による日本の集計が存在します。膵頭部は23±6mm、膵頚部は17±4mm、膵体部は20±5mm、膵尾部は18±4mmでした(厚川・久、1990)。
膵管については、逆行性膵管造影による日本人の正常値が報告されています(古寺・平松、1982)。主膵管の長さは16.3±2.6 cm。最大径は膵頭部で3.3±0.8mm、膵体部で2.7±0.6mm、膵尾部で1.5±0.4mmです。また、主膵管の最小径は膵頭部で2.6±0.7mm、膵体部で2.0±0.6mm、膵尾部で0.9±0.2mmでした。副膵管の長さは2.4±0.5 cm、最大径は0.4±0.5mm、最小径は1.1±0.5mmでした。
膵臓の年齢別重量については、日本法医学会課題調査委員会(1992)が詳しく報告しています。最大値は41〜45歳で見られ、男性が109±28.0g、女性が98±28.5gでした。また、女性では18歳代にもピークがあり、98±20.3gでした。
(2)主膵管と副膵管
通常、胃乳頭に開口する腹側膵管(Wirsung管)が主膵管となります(90%以上)。しかしながら、時折副乳頭に開口する背側膵管(Santorini管)が主膵管として膵尾に続くことがあります(石井, 1977)。溝口(1960)による解剖100例の調査では、Wirsung管が主膵管であるものは71例(71%)でした(図82)。また、別の内視鏡的膵管造影71例および新鮮剖検例の膵管造影72例によるデータでは、Wirsung管とSantorini管の両方が存在する例が84%、Wirsung管のみが15%、Santorini管のみが1%でした(図83)(片桐ら, 1977)。
膵管分枝については、剖検膵の造影により加藤(1972)が詳しく調査しており、Santorini管、Wirsung管いずれも膵頭の上部に分布する枝(上頭枝)よりも下部に分布する枝(下頭枝)を有する頻度が高く、Wirsung管から分岐するものは86%、Santorini管からのものは50%と報告しています。膵頭部から膵鈎部にかけての膵管分枝の配置に関しては、Takahashi et al.(1999)が報告しています。