肝臓 Hepar
肝臓は人体最大の腺臓器であり、右上腹部に位置する実質性臓器です。重量は成人男性で約1,400-1,600g、女性で約1,200-1,400g(体重の約2.5%)に達します。以下、解剖学的特徴と臨床的意義について詳述します(Standring, 2015)。

J0587 (腹部内臓最深層の動脈:腹面図)

J0620 (門脈の分岐:腹面図)

J0621 (門脈の幹)

J0633 (出産後の胎児の血管:前方から少し左側からの図)

J0635 (消化管のやや模式的な概観図)

J0708 (腹膜の折り返し部分と肝臓:前方からの図)

J0709 (腹膜の折り返し部分と肝臓:上方からの図)

J0710 (腹膜の折り返し部分と肝臓:下後方からの図)

J0713 (肝臓と膵臓の排出路:正面からの図)

J0717 (腹部内臓:前方からの図)

J0718 (小腸:正面からの図)

J0719 (腸間膜の屈曲:前方から見た図)

J0720 (大腸と腸間膜の根:前方からの図)

J0727 (男性の正中矢状断での腹膜の経過:赤色、やや模式的に示している)

J0924 (胸腔および腹腔にある左迷走神経:左側からの図)

J0978 (交感神経の腹部神経叢:前面からの図)
解剖学的特徴
位置と形態
- 肝臓は横隔膜の下面に接し、右上腹部の右季肋部から心窩部にかけて位置します。右側は第5-11肋骨に覆われており、正常では右肋骨弓下縁からは触知されません(Drake et al., 2020)。
- 外観は暗赤褐色を呈し、表面は滑らかで光沢があります。肝臓はグリソン鞘(線維性被膜)により被包されており、その外側は臓側腹膜に覆われています(Ross and Pawlina, 2016)。
- 肝臓の上面は横隔膜に密着する横隔面で、凸面を呈します。下面は臓器面と呼ばれ、胃、十二指腸、右結腸曲、右腎、副腎などに接します(Moore et al., 2018)。
分葉と区域解剖
- 古典的な肝臓の分葉は、鎌状間膜を境界として右葉と左葉に分けられます。さらに下面には方形葉と尾状葉が認められます(Standring, 2015)。
- 機能的・外科的には、門脈と肝静脈の分布に基づくCouinaudの分類が重要です。この分類では肝臓を8つの独立した区域(セグメント)に分けます:右葉前区域(S5, S8)、右葉後区域(S6, S7)、左葉内側区域(S4)、左葉外側区域(S2, S3)、尾状葉(S1)(Couinaud, 1957)。
- 各区域は独立した門脈枝、肝動脈枝、胆管枝を有し、肝静脈により区域間が区切られています。この解剖学的特徴により、区域単位での系統的肝切除術が可能となります(Bismuth, 1982)。
血管系
- 肝臓は二重血管支配という特徴的な血行動態を有します。肝動脈からの動脈血(酸素に富む)が全血流の25-30%を、門脈からの静脈血(栄養分に富むが酸素は少ない)が70-75%を占めます(Eipel et al., 2010)。
- 肝動脈:総肝動脈は腹腔動脈から分岐し、固有肝動脈を経て右肝動脈と左肝動脈に分かれます。しかし、肝動脈の解剖学的変異は高頻度(40-50%)で認められ、外科手術時には注意が必要です(Michels, 1966)。
- 門脈:上腸間膜静脈と脾静脈が膵臓後面で合流して形成されます。門脈は肝門部で右枝と左枝に分岐し、さらに区域枝へと分かれます。門脈血は消化管、膵臓、脾臓からの栄養素やホルモンを肝臓に運びます(Moore et al., 2018)。
- 肝静脈:肝臓からの血液は3本の主肝静脈(右肝静脈、中肝静脈、左肝静脈)を経て下大静脈に流入します。肝静脈は肝区域間を走行し、区域間の境界を形成します(Standring, 2015)。
- 肝動脈緩衝反応:門脈血流が減少すると、代償的に肝動脈血流が増加するメカニズムが存在します。これにより肝臓への総血流量が一定に保たれます(Eipel et al., 2010)。
胆道系
- 胆汁は肝細胞で産生され、毛細胆管→小葉間胆管→区域胆管→肝管→総肝管→総胆管を経て十二指腸乳頭(Vater乳頭)から十二指腸へ排出されます(Boyer, 2013)。