肝臓

肝臓は体内最大の腺で、多様な機能を持っています。主な機能は、①胆汁の生成と分泌(腸内へ)、②炭水化物、脂肪、タンパク質の代謝、③胃腸から血液に入った廃物や異物の分解という3つにまとめられます。

肝臓は、消化管から送られる血液中の過剰な糖分をグリコーゲンとして貯蔵し、有害物質があれば分解、解毒します。肝臓は、自身の動脈から血液を送り、門脈血が酸素不足の場合でも十分な酸素を供給する必要があります。

(1)位置と形状

肝臓は右上腹部に位置する大きな消化腺で、男性では約1,400g、女性では約1,200gの重さがあり、通常暗赤褐色をしています。表面は滑らかで光沢があり、腹膜に覆われています。

肝臓の上部は横隔膜の下に接しており、膨らんだ部分を横隔面と言います。心臓の上部に相当する場所にあるため、薄い心臓の圧痕が見られます。肝臓を大きな右半分と小さな左半分に分ける肝鎌状間膜があり、肝臓を横隔膜から吊り下げる機能を果たしています。横隔膜と肝臓は平滑な腹膜で自由に動くようになっていますが、後部の狭い領域では、線維性結合組織により両者が密着し、動きが制限されます。この肝臓表面の領域を無漿膜野と言います。無漿膜野は前方に細く伸びて肝鎌状間膜につながり、左右に細く伸びて左三角間膜と右三角間膜を形成します。

肝臓の上部と下部の境界は前方で細く鋭い縁を形成し、下縁(または前縁)と呼ばれます。これは上腹部から斜め右下方に向かって走る一線を形成し、触診で確認できます。下縁と右肋骨弓の交点には胆嚢の底が腹壁直下に突出しています。下縁の正中部には肝鎌状間膜をはさむ肝円索切痕という刻みがあります。

肝臓の下面は臓側面と呼ばれ、矢状方向に走る2つの溝と、それらを横に結ぶ溝によりHの字を形成しています。Hの左縦線は前方の半分が肝円索裂、後方の半分が静脈管索裂になります。Hの右縦線には前方に胆嚢窩、後方に大静脈溝が存在します。H字の横線にあたる溝は肝門で、門脈、固有肝動脈、肝管のほかに多数のリンパ管と若干の神経が通っています。

肝鎌状間膜、肝円索裂、静脈管索裂により、肝臓は大きな右葉と小さな左葉に分かれます。臓側面では、胆嚢窩、大静脈溝、肝門によって右葉(広義)が狭義の右葉、中央前方の方形葉、中央後方の尾状葉に分けられます。

尾状葉は前下方に乳頭突起を出し、前右方に肝門の後縁に沿って尾状突起を出します。乳頭突起に対して左葉から小網隆起が張り出し、両者の間に小網を挟みます。

(2)肝臓の構築

肝臓の表面は大部分が腹膜に覆われ、その下には線維性の結合組織が存在します。この結合組織は大血管と共に肝臓内に進入し、血管周囲線維鞘を形成します。これはグリソン鞘とも呼ばれます。肝臓の実質は直径1mm前後の六角(または五角)柱の肝小葉を構造単位として成り立っていますが、肝門から肝固有動脈と門脈の枝がグリソン鞘を伴って肝小葉の稜線(三つの肝小葉が集まるところ)に沿って走ります。この動静脈は小葉間動・静脈と呼ばれます。

六角柱の中心を貫くように中心静脈という太い毛細血管が走り、その周囲に肝細胞の板が放射状に配置されます。肝細胞板は分岐し、交差し、開口部を持ち、隙間から洞状毛細血管に流れ、中心静脈から小葉下静脈(Vena sublobularisとも呼ばれる)を経由して下大静脈へと流れます。

肝細胞板の中には、肝細胞間を縫うように走る細管系が存在し、これは毛細胆管です。これらは肝細胞が産生する胆汁を運びます。毛細胆管は肝小葉の縁で小葉間胆管と呼ばれる小導管に注ぎ、グリソン鞘内で合流しながら肝門へと向かいます。

(3)肝臓と血管

肝臓は門脈の番人とべき器官であり、消化管から送られてくる血液中に余分の糖分があればグリコゲンとして貯え、有害物質があれば分解、解毒します。脾臓から送られる破壊血液のヘモグロビンをビリルビンに変えて胆汁中に排泄します。門脈によって運ばれてくる膵臓のホルモンは、肝細胞でのグリコゲンの産生とブドウ糖への分解を調整します。

しかし門脈血は酸素に乏しい静脈血であるため、肝臓は動脈血を固有肝動脈に送らなければなりません。

胎生期には、臍から前腹壁を上行して肝臓の下面に達する臍静脈(Vena umbilicalis)が、肝門で門脈と合して、そのまま肝臓の下面を後方へ走り、下大静脈に注ぎます。この臍静脈と下大静脈の短絡路を静脈管またはアランチウス(Arantius)の管と称します。生後、胎生期の循環路は閉鎖し、結合組織索として残ります。臍静脈の遺残が肝円索、静脈管のそれが静脈管索となります。

J708.png

J0708 (腹膜の折り返し部分と肝臓:前方からの図)