上行結腸 Colon ascendens
上行結腸は大腸の一部で、解剖学的に以下の特徴を持ちます(Standring, 2021; Drake et al., 2020):
- 起始部:盲腸上端(回盲弁の高さ)から始まり、右腸骨窩の第5腰椎の高さまで上行します
- 終止部:肝臓の右葉下面に位置する右結腸曲(肝彎曲)で終わります
- 長さ:約15~20cm、直径は約6~7cmです(Moore et al., 2018)
- 位置関係:後腹膜に固定され、腹腔の右側部に位置しています
- 腹膜被覆:前面と側面のみ腹膜に覆われ、後面は固有筋膜を介して後腹壁に直接接しています(二次的後腹膜器官)
- 腸間膜:通常は持たず、後腹膜に固定されています(Netter, 2019)
- 血管支配:上腸間膜動脈の分枝である回結腸動脈と右結腸動脈により栄養されます
- 静脈還流:上腸間膜静脈を経て門脈系に流入します
- 神経支配:交感神経は上腸間膜神経叢、副交感神経は迷走神経(CN X)が支配しています(Standring, 2021)
臨床的意義
大腸癌
- 上行結腸は大腸癌の好発部位の一つであり、右側結腸癌として分類されます(Kuipers et al., 2015)
- 右側結腸癌は貧血や腹部不快感として現れることが多く、左側結腸癌と比較して症状が現れにくいことがあります(Siegel et al., 2020)
- 右側結腸癌は分子生物学的にも左側結腸癌と異なる特徴を示すことが知られています(Baran et al., 2018)
炎症性疾患
- 虚血性大腸炎は上行結腸よりも下行結腸や脾彎曲に好発します(Brandt et al., 2015)
- 潰瘍性大腸炎は直腸から連続的に上行する炎症を特徴とし、上行結腸まで広がることがあります(Ungaro et al., 2017)
- クローン病は上行結腸を含む消化管のどの部位にも非連続性の病変を形成することがあります(Torres et al., 2017)