虫垂は、盲腸の内側下部から出て、盲端に終わる細長い管状の腸管です。長さは平均6~15cm(範囲2~20cm)、直径は6~10mmで、成人では約8~10cmとされています(Standring, 2021)。胎児期には相対的に大きく、加齢とともに退縮する傾向があります(Moore et al., 2018)。
解剖学的位置と走行
虫垂は腹膜に完全に包まれ、三角形の腹膜ヒダである虫垂間膜(mesoappendix)によって回腸末端部の腸間膜の腹膜後葉に連なっています。虫垂間膜内には虫垂動脈(回結腸動脈の分枝)が走行しています(Netter, 2019)。
虫垂の起始部は、いわゆるマクバーネー点(McBurney's point)と呼ばれる点に投射されます。マクバーネー点は上前腸骨棘と臍を結ぶ線上で、外側3分の1に位置し、急性虫垂炎の際に圧痛点となる重要な臨床的指標です(Paulsen and Waschke, 2018)。
虫垂の位置は個体差が大きく、盲腸との位置関係で分類すると以下のようになります(Ahmed et al., 2007):
組織学的特徴
虫垂壁は内側から外側に向かって以下の4層で構成されています(Ross and Pawlina, 2020):
虫垂の最大の組織学的特徴は、粘膜固有層から粘膜下組織にかけて、リンパ小節(lymphoid follicles)が著しく発達していることです。これらのリンパ小節は生後急速に発達し、10代後半から20代にピークに達し、その後徐々に萎縮していきます(Kooij et al., 2016)。このため、虫垂は「腸扁桃(intestinal tonsil)」とも呼ばれ、免疫機能に関与していると考えられています(Randal Bollinger et al., 2007)。
臨床的意義
虫垂の内腔は狭く(約1~3mm)、特に根部では狭窄していることが多く、しばしば糞石(fecalith)や老廃物などによって閉塞することがあります。内腔の閉塞は急性虫垂炎(acute appendicitis)の主要な原因となります(Di Saverio et al., 2020)。