腸腺(大腸の)Glandulae intestinales crassi

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J0706 (直腸の粘膜(上部):粘膜表面の図)

構造と分布

大腸の腸腺(リーベルキューン腺、Crypts of Lieberkühnとも呼ばれる)は、大腸粘膜上皮が陥入して形成された単純管状腺です(Standring, 2020; Ross and Pawlina, 2018)。これらの腺は粘膜固有層(lamina propria)内に位置し、大腸全域にわたって密に分布しています。組織学的には、主に杯細胞(goblet cells、粘液産生細胞)と円柱吸収上皮細胞(columnar absorptive cells)で構成されており、小腸の腸腺と比較して杯細胞の割合が著しく高いのが特徴です(Young et al., 2023)。各腺の基底部には、幹細胞が存在し、継続的に上皮細胞を供給しています(Barker, 2014)。

解剖学的特徴

解剖学的には、大腸の腸腺は粘膜表面の陰窩(クリプト、crypts)として観察され、その深さは約0.4-0.5mmに達します(Standring, 2020)。大腸全体で約10^7個の腺が存在し、盲腸から直腸に向かうにつれて密度と深さが増加する傾向があります(Gray and Podolsky, 2021)。特に直腸では最も発達しており、杯細胞の密度も最高となります。腸腺間の粘膜固有層には、リンパ球、形質細胞、マクロファージなどの免疫担当細胞が豊富に存在し、粘膜免疫系の重要な構成要素となっています(Mowat and Agace, 2014)。

生理学的機能

機能的には、腸腺は主に保護的な粘液層を産生し、便塊の通過を円滑にします(Johnson et al., 2022)。杯細胞から分泌されるムチン(主にMUC2)は、大腸粘膜表面に厚い粘液層を形成し、腸内細菌と上皮との直接接触を防ぎます(Johansson et al., 2013)。この粘液は、アルカリ性炭酸水素塩(HCO3-)を含み、大腸内の酸性環境から粘膜を保護する役割も果たします(Johnson et al., 2022)。また、腸腺の吸収上皮細胞は、ナトリウムと水分の吸収に重要な役割を担い、一日あたり約1-2リットルの水分を吸収します(Barrett et al., 2019)。さらに、腸腺は短鎖脂肪酸(特に酪酸)の代謝、電解質の吸収と分泌、腸管上皮の継続的な再生(約3-5日周期)、そして粘膜関連リンパ組織(MALT)との連携による免疫防御機能にも関与しています(Camilleri, 2019)。

臨床的意義

臨床的には、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)では腸腺の構造異常、クリプト膿瘍の形成、杯細胞の著明な減少、基底部の不規則性などがみられます(Feakins, 2020; Magro et al., 2017)。これらの変化は、疾患の診断と重症度評価に重要な組織学的指標となります。大腸腺腫や大腸癌は腸腺の異常増殖から発生することが多く、初期には腺管構造の異型性(核の偽重層化、核・細胞質比の増加、細胞極性の喪失など)として現れます(WHO Classification of Tumours Editorial Board, 2019)。過敏性腸症候群では、腸腺からの粘液分泌異常や上皮透過性の亢進が症状(腹痛、下痢、便秘)に関与している可能性があります(Camilleri et al., 2019)。さらに、放射線治療や一部の化学療法薬(5-FU、イリノテカンなど)は腸腺に直接的な細胞障害を与え、粘膜炎、下痢、粘液分泌異常を引き起こすことがあります(Touchefeu et al., 2014)。偽膜性大腸炎では、Clostridioides difficile毒素による腸腺の壊死と偽膜形成が特徴的です(Leffler and Lamont, 2015)。

参考文献