回腸 Ileum
回腸は小腸の最終部分であり、以下の解剖学的特徴と臨床的意義を持ちます(Gray and Standring, 2021):
解剖学的特徴
- 位置と範囲:腸間膜小腸の肛門側5分の3を占め、長さは約3.5mです(Moore et al., 2018)
- 境界:空腸との明確な境界はなく、徐々に移行します(Treitz靭帯から約2-3m肛門側から始まると考えられています)
- 形態:直径約2.5cmの管状構造で、空腸に比べて壁が薄く、血管分布も少なくなります(Netter, 2019)
- 可動性:長い腸間膜を持ち、腹腔内での可動性が高いです
- 終末部:回盲弁(Bauhin弁)を介して盲腸に接続します(Moore et al., 2018)
- 色調:空腸に比べてやや白色味を帯びており、腸壁の血管が少ないことを反映しています
- 腸絨毛:空腸に比べて数が少なく(約2500個/cm²)、形状は四角形で短いのが特徴です(Schoenwolf et al., 2021)
- 吸収表面積:回腸の吸収上皮の総表面積は約5.3m²で、空腸(約10m²)より小さいです(Johnson, 2020)
- 特殊構造:20~30個の集合リンパ小節(パイエル板/Peyer's patches)があり、免疫機能において重要な役割を果たします。これらの表面には絨毛が存在しません(Mowat and Agace, 2014)
重要な解剖学的変異
- メッケル憩室(Meckel's diverticulum):回盲部から約60cm口側に位置する円錐状または円筒状の突出物で、一般人口の約2%に見られます。胎生期の卵黄腸管(viteline duct)の遺残物で、「2の法則」(人口の2%、回盲弁から2フィート、長さ2インチ、2歳以下で症状が出やすい)で知られています(Sagar et al., 2006)
血管支配
- 動脈:上腸間膜動脈の回腸枝によって供給されます(Gray and Standring, 2021)
- 静脈:回腸静脈が上腸間膜静脈に合流し、最終的に門脈系へと流入します(Paulsen and Waschke, 2018)
- リンパ:回腸のリンパは腸間膜リンパ節を経て上腸間膜リンパ節へと流れます(Moore et al., 2018)
神経支配
- 自律神経:交感神経(上腸間膜神経叢由来)と副交感神経(迷走神経由来)の二重支配を受けます(Furness, 2012)