下行部(十二指腸の)Pars descendens duodeni

解剖学的位置と特徴

十二指腸の下行部は、上部で下方に屈曲して(上十二指腸曲 superior duodenal flexure)、下行部となります。下行部は長さ約8cmで、第2・3腰椎の右側で右腎臓腎門の前を垂直に下行します(Gray and Standring, 2021)。解剖学的には後腹膜腔に位置し、腹膜後器官として固定されています。

大十二指腸乳頭と胆膵管開口部

下行部の後内側壁には、膵管と総胆管が合流して開口しています。この開口部は、下行部のほぼ中央(幽門から約7-10cmのところ)でやや隆起し、大十二指腸乳頭(乳頭膨大部、ファーテル乳頭、papilla duodeni major)を形成します(Skandalakis et al., 2019)。ここでは十二指腸壁の粘膜下層に粘膜の縦ひだ(縦ヒダ)があり、その末端部が乳頭状に突出しています。

オッディ括約筋の機能と臨床意義

開口部は、オッディの括約筋(sphincter of Oddi)と呼ばれる平滑筋で輪状に囲まれています。この括約筋は膵胆管系の内容物の流出を調節する重要な役割を果たし、胆汁と膵液の十二指腸への排出を制御しています(Toouli, 2002)。臨床的には、胆石がこの部位で詰まると閉塞性黄疸を引き起こすことがあります。また、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)などの内視鏡処置で重要な解剖学的ランドマークとなります。

小十二指腸乳頭と副膵管

大十二指腸乳頭の約2cm上方に、小十二指腸乳頭(papilla duodeni minor)があり、ここに副膵管(サントリーニ管)が開口することもあります(Adachi et al., 2016)。副膵管は約30%の人では閉鎖しているか機能していません。しかし、主膵管(ウィルスンク管)の閉塞時には副膵管が代償経路として機能することがあります。

十二指腸憩室の病態生理

大十二指腸乳頭の付近で、十二指腸は膵臓に向かって嚢状に内腔が膨出することがあります。これを十二指腸憩室(duodenal diverticulum)と呼びます(Mahajan et al., 2018)。この憩室は傍乳頭憩室とも呼ばれ、多くは無症状ですが、時に食物残渣が貯留して炎症(憩室炎)を起こしたり、稀に出血や穿孔を引き起こすことがあります。また、胆管や膵管を圧迫することで胆汁うっ滞や膵炎の原因となることもあります。憩室は加齢とともに頻度が増加し、60歳以上では約20%に認められる比較的一般的な解剖学的変異です。

血管・神経支配

血管支配に関しては、十二指腸下行部は主に上腸間膜動脈から分岐する下膵十二指腸動脈と、腹腔動脈から分岐する胃十二指腸動脈の下行枝から血液供給を受けています(Moore et al., 2022)。静脈還流は門脈系に流入し、神経支配は交感神経と副交感神経(迷走神経)の両方を受けています。

参考文献