


J0692 (十二指腸と膵臓、および腹膜の覆い:前方からの図)




十二指腸の下行部は、上部で下方に屈曲して(上十二指腸曲 superior duodenal flexure)、下行部となります(Gray and Standring, 2021)。下行部は長さ約8-10cmで、第1腰椎から第3腰椎レベルにかけて、右腎臓腎門の前を垂直に下行します(Moore et al., 2022)。解剖学的には後腹膜腔に位置し、腹膜後器官として固定されています(Skandalakis et al., 2019)。この部分は、膵頭部の右側に位置し、膵鉤状突起によって部分的に囲まれています(Netter, 2019)。
下行部の後内側壁には、膵管(ウィルスング管、duct of Wirsung)と総胆管(common bile duct)が合流して開口しています(Kapoor, 2017)。この開口部は、下行部のほぼ中央(幽門から約7-10cmのところ)でやや隆起し、大十二指腸乳頭(乳頭膨大部、ファーテル乳頭、papilla duodeni major; ampulla of Vater)を形成します(Skandalakis et al., 2019; Testoni et al., 2016)。ここでは十二指腸壁の粘膜下層に粘膜の縦ひだ(縦走ヒダ、longitudinal fold)があり、その末端部が乳頭状に突出しています(Gray and Standring, 2021)。この構造は内視鏡検査時の重要なランドマークとなります(Cotton and Williams, 2008)。
開口部は、オッディの括約筋(sphincter of Oddi; hepatopancreatic sphincter)と呼ばれる平滑筋で輪状に囲まれています(Toouli, 2002)。この括約筋は、総胆管括約筋(sphincter choledochus)、膵管括約筋(sphincter pancreaticus)、および共通括約筋(sphincter ampullae)の3つの部分から構成されています(Hogan and Geenen, 2001)。この括約筋は膵胆管系の内容物の流出を調節する重要な役割を果たし、胆汁と膵液の十二指腸への排出を制御しています(Toouli, 2002)。また、十二指腸内容物の胆管や膵管への逆流を防ぐ機能も有しています(Kapoor, 2017)。臨床的には、胆石がこの部位で詰まると閉塞性黄疸や急性膵炎を引き起こすことがあります(Testoni et al., 2016)。また、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影、endoscopic retrograde cholangiopancreatography)などの内視鏡処置で重要な解剖学的ランドマークとなります(Cotton and Williams, 2008)。オッディ括約筋機能不全(sphincter of Oddi dysfunction)は、腹痛や膵炎の原因となることが知られています(Toouli, 2002)。
大十二指腸乳頭の約2cm上方の前内側壁に、小十二指腸乳頭(papilla duodeni minor; minor papilla)があり、ここに副膵管(サントリーニ管、accessory pancreatic duct; duct of Santorini)が開口することがあります(Adachi et al., 2016; Gray and Standring, 2021)。副膵管は胎生期の背側膵管の遺残であり、発生学的に重要な構造です(Moore et al., 2022)。副膵管は約30-40%の人では閉鎖しているか機能していません(Kapoor, 2017)。しかし、主膵管(ウィルスング管)の閉塞時には副膵管が代償経路として機能することがあります(Adachi et al., 2016)。膵管癒合不全症(pancreas divisum)では、副膵管が膵液排出の主経路となり、膵炎のリスク因子となることが報告されています(Testoni et al., 2016)。
大十二指腸乳頭の付近で、十二指腸は膵臓に向かって嚢状に内腔が膨出することがあります。これを十二指腸憩室(duodenal diverticulum)と呼びます(Mahajan et al., 2018)。この憩室は傍乳頭憩室(periampullary diverticulum)とも呼ばれ、全人口の5-23%に認められる比較的一般的な解剖学的変異です(Egawa et al., 2010)。多くは無症状ですが、時に食物残渣が貯留して炎症(憩室炎、diverticulitis)を起こしたり、稀に出血や穿孔を引き起こすことがあります(Mahajan et al., 2018)。また、胆管や膵管を圧迫することで胆汁うっ滞や膵炎の原因となることもあります(Egawa et al., 2010)。憩室は加齢とともに頻度が増加し、60歳以上では約20-30%に認められます(Mahajan et al., 2018)。臨床的には、ERCP時の手技的困難の原因となることがあり、内視鏡医にとって重要な解剖学的変異です(Cotton and Williams, 2008)。
血管支配に関しては、十二指腸下行部は主に上腸間膜動脈(superior mesenteric artery)から分岐する下膵十二指腸動脈(inferior pancreaticoduodenal artery)と、腹腔動脈(celiac artery)から分岐する胃十二指腸動脈(gastroduodenal artery)の上膵十二指腸動脈(superior pancreaticoduodenal artery)から血液供給を受けています(Moore et al., 2022; Netter, 2019)。これらの動脈は膵十二指腸アーケード(pancreaticoduodenal arcade)を形成し、豊富な側副血行路を提供しています(Gray and Standring, 2021)。静脈還流は門脈系(portal venous system)に流入し、上腸間膜静脈および脾静脈を経由して門脈に注ぎます(Moore et al., 2022)。神経支配は交感神経(上腸間膜神経叢、superior mesenteric plexus)と副交感神経(迷走神経、vagus nerve)の両方を受けており、消化管運動と分泌の調節を行っています(Gray and Standring, 2021)。