

小腸の腸腺はリーベルキューン陰窩(Crypts of Lieberkuhn)とも呼ばれ、小腸粘膜の上皮が陰窩状に陥入した管状腺構造です(Ross and Pawlina, 2020; Kierszenbaum and Tres, 2016)。各陰窩は単層円柱上皮に覆われた管状の構造を形成し、腸絨毛の基部に開口しています(Mescher, 2018)。その長さは約0.3〜0.5mm、直径は約70〜90μmで(Young et al., 2014)、十二指腸から回腸まで小腸全体に分布しています。腸腺の密度は小腸の部位によって異なり、十二指腸では1mm²あたり約10〜40個、空腸と回腸では約50〜100個存在します(Ross and Pawlina, 2020)。
組織学的には、腸腺は単層円柱上皮で覆われており、機能的に特化した複数の細胞タイプから構成されています(Clevers, 2013)。腸腺の細胞構成は陰窩の部位により異なり、以下の主要な細胞タイプを含みます:
腸腺は小腸上皮細胞の再生の源として重要な役割を果たしています(Barker, 2014)。腸腺底部の幹細胞から分化した細胞は、細胞分裂と移動を繰り返しながら陰窩を上昇し、腸絨毛へと移動します(Clevers, 2013)。この過程で細胞は成熟し、分化した機能を獲得します。移動速度は1日あたり約10〜15細胞分の距離で、絨毛頂部に到達した細胞はアポトーシスにより脱落します(Watson et al., 2009)。この継続的な細胞の置換により、小腸上皮全体は約3〜5日で完全に更新されます(van der Flier and Clevers, 2009)。
腸腺からは消化液も分泌されています。腸腺の吸収上皮細胞は腸液(succus entericus)を産生し、これには水分、電解質、および粘液が含まれます(Barrett et al., 2019)。腸液は1日あたり約1〜2リットル分泌され、腸管内容物の希釈と栄養素の溶解を助けます(Hall, 2016)。また、腸腺の上皮細胞には刷子縁に結合した消化酵素(マルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、ペプチダーゼなど)が存在し、最終的な消化段階を担います(Ferraris et al., 2001)。
腸腺は腸管免疫においても中心的な役割を果たしています(Peterson and Artis, 2014)。パネート細胞の抗菌ペプチド分泌、杯細胞の粘液層形成、M細胞による抗原サンプリングなどが協調的に機能し、腸管バリア機能と免疫恒常性を維持しています(Okumura and Takeda, 2017)。
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)、特にクローン病や潰瘍性大腸炎では、腸腺の形態異常が顕著に見られます(Neurath, 2019)。陰窩構築の破壊、陰窩膿瘍の形成、杯細胞の減少などが特徴的で、これらは腸管バリア機能の低下と異常な免疫応答を引き起こします(Khor et al., 2011)。
セリアック病(celiac disease)では、グルテンに対する免疫応答により腸絨毛萎縮と陰窩過形成(crypt hyperplasia)が生じ、吸収不良症候群を呈します(Green and Cellier, 2007; Lebwohl et al., 2018)。陰窩過形成は上皮細胞の増殖亢進による代償機構ですが、未成熟な吸収細胞の増加により消化吸収機能は著しく低下します(Marsh, 1992)。