
J0695 (回腸の断面図:腸間膜の起源で切り開かれ、広げられました)

J0696 (回腸の断面図:腸間膜の起源で切り開かれ、広げられました)

小腸の粘膜は、粘膜上皮(epithelium)、粘膜固有層(lamina propria)、粘膜筋板(lamina muscularis mucosae)の3層から構成されています(Ross and Pawlina, 2021)。この粘膜層は小腸の内腔に面し、栄養素の消化吸収において重要な役割を果たします(Kierszenbaum and Tres, 2019)。小腸粘膜の表面積は、輪状ヒダ(plicae circulares)、絨毛(villi)、微絨毛(microvilli)という3段階の構造により約600倍に増大し、効率的な栄養吸収を可能にしています(Mescher, 2018)。
小腸粘膜上皮は単層円柱上皮であり、主に吸収細胞(enterocytes)と杯細胞(goblet cells)から構成されています(Mescher, 2018; Young et al., 2020)。吸収細胞は小腸上皮細胞の約80%を占め、その頂端面には微絨毛(microvilli)が密集して「刷子縁(brush border)」を形成し、吸収表面積を約30倍に増大させます(Ross and Pawlina, 2021)。刷子縁にはジサッカリダーゼやペプチダーゼなどの消化酵素が存在し、最終的な消化過程を担います(Kierszenbaum and Tres, 2019)。
杯細胞は粘液(mucin)を分泌し、腸管内容物の潤滑と粘膜保護に寄与します(Johansson and Hansson, 2016)。杯細胞の数は十二指腸から回腸に向かって増加し、腸管の保護機能を強化しています(Specian and Oliver, 1991)。
他にもパネート細胞(Paneth cells)は腸陰窩(crypts of Lieberkühn)の基底部に位置し、抗菌ペプチド(α-defensins、リゾチーム)を分泌して腸内細菌叢の調節と病原体からの防御に関与します(Bevins and Salzman, 2011)。腸内分泌細胞(enteroendocrine cells)は消化管ホルモン(セクレチン、コレシストキニン、GLP-1など)を分泌し、消化機能の調節に重要な役割を果たします(Gribble and Reimann, 2016)。M細胞(microfold cells)はパイエル板上に存在し、抗原の取り込みと腸管免疫応答の開始に関与します(Mowat and Agace, 2014)。
粘膜固有層は疎性結合組織で構成され、豊富な毛細血管網、リンパ管(乳び管:lacteals)、神経線維を含みます(Young et al., 2020)。各絨毛の中心には乳び管が存在し、脂溶性ビタミンや脂質の吸収に重要な役割を果たします(Bernier-Latmani and Petrova, 2017)。
また、リンパ小節(lymphoid follicles)やリンパ球、形質細胞、マクロファージ、樹状細胞などの免疫細胞が存在し、腸管関連リンパ組織(GALT: gut-associated lymphoid tissue)を形成します(Brandtzaeg et al., 2008; Mowat and Agace, 2014)。特に回腸末端には集合リンパ小節であるパイエル板(Peyer's patches)が発達し、腸管免疫の中心的役割を担います(Cornes, 1965)。粘膜固有層には分泌型IgA(secretory IgA)を産生する形質細胞が多数存在し、腸管内の病原体に対する粘膜免疫を担っています(Brandtzaeg, 2013)。
粘膜筋板は薄い平滑筋層で、内輪・外縦の2層から構成され、粘膜の運動性を担い、消化物の混合と移動を補助します(Kierszenbaum and Tres, 2019)。粘膜筋板の収縮により絨毛が律動的に運動し(villar pumping)、吸収効率を高めています(Womack et al., 1987)。また、粘膜筋板は粘膜と粘膜下層の境界を明確にし、組織学的診断において重要な指標となります(Levine and Lauwers, 2008)。
小腸粘膜は炎症性腸疾患(IBD)、セリアック病、感染症、虚血、放射線障害などの病態で障害を受けます(Vere et al., 2015)。特にセリアック病では、グルテンに対する自己免疫反応により絨毛が萎縮し(villous atrophy)、陰窩が過形成(crypt hyperplasia)を起こし、吸収不良症候群を引き起こします(Green and Cellier, 2007; Marsh, 1992)。診断にはMarsh分類が用いられ、組織学的変化の程度を評価します(Oberhuber et al., 1999)。
クローン病では粘膜から漿膜まで全層性の非連続性炎症が特徴であり、非乾酪性類上皮肉芽腫の形成が病理学的特徴です(Baumgart and Sandborn, 2012; Feakins, 2013)。潰瘍性大腸炎は主に大腸に発生しますが、backwash ileitisとして回腸末端にも炎症が及ぶことがあり、粘膜および粘膜下層主体の連続性炎症が特徴です(Geboes et al., 2000)。
小腸細菌異常増殖症(SIBO: small intestinal bacterial overgrowation)では粘膜の炎症と絨毛の萎縮が起こり、吸収不良と下痢を引き起こします(Dukowicz et al., 2007)。腸管虚血では粘膜層が最も脆弱であり、早期に壊死を起こします(Oldenburg et al., 2004)。
小腸粘膜の状態は内視鏡検査(特にカプセル内視鏡、バルーン内視鏡)や生検で評価され、病理組織学的変化は診断に重要な情報を提供します(Dickson et al., 2017; Pennazio et al., 2015)。また、腸管透過性(intestinal permeability)の亢進は多くの全身性疾患と関連しており、粘膜バリア機能の評価が重要です(Bischoff et al., 2014)。