粘膜(小腸の)Tunica mucosa intestini tenuis

小腸の粘膜は、粘膜上皮(epithelium)、粘膜固有層(lamina propria)、粘膜筋板(lamina muscularis mucosae)の3層から構成されています(Ross and Pawlina, 2021)。この粘膜層は小腸の内腔に面し、栄養素の消化吸収において重要な役割を果たします。

1. 粘膜上皮

単層円柱上皮で、主に吸収細胞(enterocytes)と杯細胞(goblet cells)から構成されています(Mescher, 2018)。吸収細胞の頂端面には微絨毛(microvilli)が密集し、「刷子縁(brush border)」を形成して吸収表面積を約30倍に増大させます。杯細胞は粘液(mucin)を分泌し、腸管内容物の潤滑と粘膜保護に寄与します。他にもパネート細胞(Paneth cells)、腸内分泌細胞(enteroendocrine cells)、M細胞などが存在します(Mowat and Agace, 2014)。

2. 粘膜固有層

疎性結合組織で構成され、豊富な毛細血管網、リンパ管、神経線維を含みます(Young et al., 2020)。また、リンパ小節(lymphoid follicles)やリンパ球、形質細胞、マクロファージなどの免疫細胞が存在し、腸管免疫系(GALT: gut-associated lymphoid tissue)を形成します(Brandtzaeg et al., 2008)。

3. 粘膜筋板

薄い平滑筋層で、粘膜の運動性を担い、消化物の混合と移動を補助します(Kierszenbaum and Tres, 2019)。

4. 臨床的意義

小腸粘膜は炎症性腸疾患(IBD)、セリアック病、感染症、虚血などの病態で障害を受けます(Vere et al., 2015)。特にセリアック病では、グルテンに対する免疫反応により絨毛が萎縮し、吸収不良症候群を引き起こします(Green and Cellier, 2007)。また、クローン病では粘膜から漿膜まで全層性の炎症が、潰瘍性大腸炎では粘膜主体の炎症が特徴的です(Baumgart and Sandborn, 2012)。小腸粘膜の状態は内視鏡検査や生検で評価され、病理組織学的変化は診断に重要な情報を提供します(Dickson et al., 2017)。

参考文献