
胃小窩(foveolae gastricae)は、胃粘膜表面に見られる小さな陥凹構造で、絨毛様ヒダ(rugae)の間に多数存在する胃腺の開口部です(Ross and Pawlina, 2020; Mescher, 2018)。胃小窩は表面上皮細胞(単層円柱上皮)に覆われており(Kierszenbaum and Tres, 2016)、その深さは約0.2mmで、1mm²あたり約90〜100個存在します(Ross and Pawlina, 2020)。各胃小窩には通常3〜7本の胃腺が開口しており、胃の部位によってその比率は異なります(Gartner and Hiatt, 2020)。
解剖学的には、胃小窩は胃の粘膜層を特徴づける重要な微細構造で、胃の部位によって形態が顕著に異なります(Mescher, 2018)。噴門部では胃小窩は比較的浅く、粘膜層全体の約4分の1を占めるに過ぎませんが、胃体部では深くなり、粘膜層の約3分の1に達し、幽門部では再び浅くなり粘膜層の約2分の1を占める傾向があります(Young et al., 2014; Stevens and Lowe, 2005)。胃小窩の底部からは胃腺(胃底腺、幽門腺、噴門腺)が開口しており、これらの腺から消化酵素(ペプシノゲン)、粘液、塩酸、内因子などが分泌されます(Boron and Boulpaep, 2017)。胃小窩を構成する表面粘液細胞は、頂端部に粘液顆粒を含み、基底部に核を有する特徴的な形態を示します(Kierszenbaum and Tres, 2016)。
組織学的には、胃小窩は単層円柱上皮で構成され、その上皮細胞は主に表面粘液細胞(surface mucous cells)からなります(Gartner and Hiatt, 2020)。これらの細胞は約3〜5日の周期で更新され、胃腺頸部に存在する幹細胞から分化・供給されます(Karam and Leblond, 1993)。胃小窩の上皮細胞間には緊密結合(tight junction)が形成され、胃酸の粘膜下への侵入を防ぐバリア機能を担っています(Allen and Flemström, 2005)。
胃小窩は粘液産生細胞を含み、胃の表面を保護する重要な粘液層の形成に寄与しています(Schubert and Peura, 2008)。表面粘液細胞から分泌される粘液は、ムチン(主にMUC5AC)を主成分とし、胃酸から胃粘膜自体を保護する重要なバリア機能を果たしています(Linden et al., 2008)。この粘液層は厚さ約50〜200μmで、pH勾配を形成し、粘膜表面では中性に近いpHを維持することで、胃酸による障害から上皮細胞を保護しています(Allen and Flemström, 2005)。さらに、粘液層には重炭酸イオンが含まれ、胃酸を中和する緩衝作用も担っています(Atherton and Blaser, 2009)。
臨床的には、胃小窩は胃粘膜防御機構の一部を形成し、胃粘膜上皮細胞から分泌される粘液が胃酸から粘膜を保護する役割を担っています(Schubert and Peura, 2008)。Dixon et al.(1996)の研究によれば、慢性胃炎やHelicobacter pylori感染症では胃小窩の形態変化が見られ、特に胃小窩上皮の過形成、異型性、腸上皮化生などが観察され、これらは内視鏡検査や病理組織検査の重要な診断指標となります(Correa and Piazuelo, 2012)。胃潰瘍や胃癌の病態では胃小窩の構造が破壊されることがあり、治癒過程では胃小窩の再生が観察されます(Tarnawski and Ahluwalia, 2012)。また、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用は胃小窩上皮細胞を障害し、粘液産生を低下させることが知られています(Laine et al., 2008)。内視鏡的には、胃小窩の拡大観察(magnifying endoscopy)により、胃粘膜の微細構造の変化を評価することが可能で、早期胃癌の診断にも応用されています(Yao, 2001)。