
胃の絨毛様ヒダ(Plicae villosae gastricae)は、胃粘膜表面に存在する微細な上皮性のヒダ構造です。これらは腺口(胃腺の開口部)の間に位置し、肉眼では観察できないほど微小な構造となっています(Kato et al., 2018)。絨毛様ヒダの高さは約20-50μmで、走査電子顕微鏡により詳細な観察が可能です(Stevens and Lowe, 2020)。
解剖学的には、胃粘膜は単層円柱上皮で覆われており、この上皮層が折りたたまれることで絨毛様ヒダを形成しています(Kierszenbaum and Tres, 2021)。胃の粘膜は4つの主要層(表層上皮細胞層、胃小窩層、胃腺層、粘膜筋板)から構成されており、絨毛様ヒダは主に表層上皮と胃小窩の部分に形成されます(Yamada and Alpers, 2019)。表層上皮細胞は粘液産生細胞であり、アルシアンブルー染色により可視化されます(Mescher, 2021)。
組織学的には、絨毛様ヒダの上皮は胃表層粘液細胞(surface mucous cells)で構成され、これらの細胞は豊富な粘液顆粒を含んでいます(Ross and Pawlina, 2020)。基底膜は連続性を保ち、その下層には固有層(lamina propria)が存在し、結合組織、血管、およびリンパ組織が豊富に分布しています(Eroschenko, 2017)。
この微細なヒダ構造は、胃の領域によって異なる特徴を示します。幽門部では比較的密に分布し、胃体部や噴門部ではより疎に配置されています(Noguchi et al., 2020)。幽門前庭部では絨毛様ヒダの密度が最も高く、約150-200個/mm²に達します(Hashimoto et al., 2019)。
これらのヒダは粘液分泌面積を増大させ、胃の防御機能を高める役割を果たしています(Allen and Flemström, 2018)。表面積の増加により、粘液層の厚さは約200-450μmに保たれ、胃酸からの粘膜保護に寄与しています(Laine et al., 2017)。さらに、絨毛様ヒダは重炭酸イオンの分泌を促進し、粘膜表面のpHを中性に近づける役割も担っています(Takeuchi, 2020)。
臨床的には、慢性胃炎や胃潰瘍などの炎症性疾患において、この絨毛様ヒダの構造が変化することが知られています(Tanaka and Suzuki, 2021)。Helicobacter pylori感染により、絨毛様ヒダの平坦化や消失が観察され、粘膜防御機能の低下を招きます(Sugano et al., 2015)。萎縮性胃炎では、絨毛様ヒダの密度が健常者の約40-60%に減少することが報告されています(Watanabe et al., 2018)。
また、内視鏡的拡大観察や狭帯域光観察(NBI)などの先進的な検査技術により、これらの微細構造の異常を早期に検出することが可能となり、胃癌などの早期診断に貢献しています(Yao et al., 2022)。拡大内視鏡による絨毛様ヒダの観察では、不規則性や消失パターンが腫瘍性病変の診断マーカーとなります(Ezoe et al., 2011)。NBIでは、絨毛様ヒダの微細血管構築の変化を検出でき、診断感度は約85-92%に達します(Maki et al., 2013)。
さらに、機能性ディスペプシアにおいても、絨毛様ヒダの形態異常が症状と相関することが示唆されており、病態生理の解明に重要な役割を果たしています(Sugimoto et al., 2019)。