
胃小区(Areae gastricae)は、胃粘膜表面に見られる特徴的な構造であり、浅い溝(溝状陥凹、gastric furrows)によって区切られた隆起部分として観察されます(Standring, 2016)。各胃小区の直径は1~6mm程度で、胃体部(corpus)および胃底部(fundus)において特に明瞭な多角形パターンを形成します(Ross and Pawlina, 2016)。
各胃小区の表面には胃小窩(gastric pits, foveolae gastricae)と呼ばれる胃腺の開口部が多数存在し、一つの胃小区あたり約3〜5個の胃小窩が開口しています(Mescher, 2018)。この構造は、粘膜表面積を増大させ、効率的な分泌機能を可能にしています(Kierszenbaum and Tres, 2016)。胃小窩の深さは胃の部位によって異なり、胃体部では粘膜厚の約1/4、幽門部では約1/2に達します(Young et al., 2014)。
組織学的には、胃小区の表層は単層円柱上皮(simple columnar epithelium)で覆われており、この上皮細胞は粘液分泌細胞(mucous surface cells)として機能します(Stevens and Lowe, 2015)。これらの細胞は豊富なムチン顆粒を含み、アルシアンブルー染色で陽性を示します(Gartner and Hiatt, 2017)。
分泌された粘液層は厚さ約200μmの保護バリアを形成し、胃酸(pH 1.5〜3.5)および消化酵素ペプシンから胃壁を保護する重要な役割を果たします(Young et al., 2014)。この粘液層には重炭酸イオン(HCO3-)も含まれており、粘膜表面のpHを中性付近に維持しています(Allen and Flemström, 2005)。
胃小区の下層には固有層(lamina propria)が存在し、ここには胃腺(gastric glands)が密に配列しています(Kumar and Clark, 2017)。胃腺は部位によって異なる細胞構成を示し、胃体部・胃底部では主細胞(chief cells)と壁細胞(parietal cells)を含む胃底腺(fundic glands)が、幽門部では粘液分泌細胞とG細胞を含む幽門腺(pyloric glands)が分布します(Mescher, 2018)。
内視鏡検査において、胃小区のパターン観察は胃粘膜の状態を評価する重要な指標となります(Rugge et al., 2011)。正常な胃粘膜では、胃小区は均一で明瞭な多角形パターンを示しますが、様々な病態でその形態が変化します。
慢性萎縮性胃炎(chronic atrophic gastritis)では、胃腺の萎縮と線維化により胃小区の境界が不明瞭となり、粘膜表面が平坦化します(Dixon et al., 1996)。一方、過形成性胃炎(hyperplastic gastritis)では胃小区が肥大し、より明瞭で不規則なパターンを呈することがあります(Yao, 2014)。
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染では、炎症性細胞浸潤により胃小区の変形や発赤が観察され、拡大内視鏡検査(magnifying endoscopy)によってその微細な変化を評価できます(Yagi et al., 2020)。除菌治療後には胃小区のパターンが改善することが報告されています(Kamada et al., 2013)。
また、早期胃癌(early gastric cancer)の診断においても、胃小区の消失や不整は重要な所見となります(Kato et al., 2016)。狭帯域光観察(narrow band imaging: NBI)を用いた検査では、胃小区パターンの変化がより明瞭に観察可能となり、病変の早期発見に寄与しています(Ezoe et al., 2011)。