輪筋層(胃の)Stratum circulare tunicae muscularis gastricae

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J0687 (胃の筋層(浅層):前方からの図)

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J0688 (胃の筋層:前方から見た中層と深層)

胃の筋層は、外側から内側に向かって縦走筋層(外縦筋層)、輪走筋層(中輪筋層)、斜走筋層(内斜筋層)の3層構造を形成しています(Keshav, 2013; Standring, 2021)。輪筋層は胃壁の中間に位置し、筋繊維が胃の長軸に対して垂直に走行し、胃を取り巻くように配列しています(Moore et al., 2018)。この構造により、輪筋層が収縮すると胃の内腔径が狭くなり、胃内容物の機械的消化と輸送が促進されます(Johnson, 2017)。

解剖学的特徴

輪筋層は胃底部から幽門部まで連続しており、胃体部では比較的均一な厚さを保ちますが、特に幽門部で著しく肥厚して幽門括約筋(pyloric sphincter)を形成します(Standring, 2021; Drake et al., 2020)。この括約筋は胃内容物の十二指腸への排出を調節する重要な役割を担っており、その厚さは通常3〜5mmに達します(Moore et al., 2018)。Huizinga and Lammers(2009)によれば、輪筋層の収縮は胃の蠕動運動において主要な役割を果たし、食物の混合と輸送を促進します。輪筋層の収縮パターンは、カハール介在細胞(interstitial cells of Cajal, ICC)によって生成される電気的ペースメーカー活動によって調節されており、これにより規則的な蠕動波が形成されます(Sanders et al., 2012)。また、輪筋層は迷走神経および交感神経の支配を受け、神経伝達物質であるアセチルコリンやノルアドレナリンによって収縮や弛緩が制御されています(Furness, 2012)。

臨床的意義

輪筋層の機能不全は、胃排出障害、逆流性食道炎、機能性ディスペプシアなど、さまざまな消化器疾患と関連します(Camilleri, 2019; Talley and Ford, 2015)。特に幽門括約筋の肥厚や痙攣は幽門狭窄(pyloric stenosis)を引き起こし、嘔吐、体重減少、脱水といった症状を呈することがあります(Huang et al., 2016)。先天性肥厚性幽門狭窄症は乳児期に多く見られ、幽門括約筋の過剰な肥大により胃内容物の通過が妨げられます(Aspelund and Langer, 2019)。また、Sanders et al.(2012)は、胃の運動機能障害である機能性ディスペプシアや胃不全麻痺(gastroparesis)においても、輪筋層を含む胃筋層の協調運動の障害が関与していると報告しています。胃不全麻痺では、カハール介在細胞の減少や変性が観察され、これが蠕動運動の低下を引き起こす主要な原因とされています(Grover et al., 2011)。さらに、胃癌や消化性潰瘍などの病変が輪筋層に及ぶと、胃壁の運動機能が著しく障害され、消化機能の低下や疼痛が生じることがあります(Washington and Leung, 2016)。

参考文献