縦筋層(胃の)Stratum longitudinale tunicae muscularis gastricae

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J0687 (胃の筋層(浅層):前方からの図)

解剖学的構造

胃の縦筋層は、胃壁の筋層(tunica muscularis)の最外層を構成する平滑筋の層です(Standring, 2021)。主に大弯(greater curvature)と小弯(lesser curvature)に沿って分布し、食道から連続する縦走筋繊維によって形成されています(Skandalakis et al., 2009; Drake et al., 2020)。この層は胃の前後壁では比較的薄く、特に胃体部では中間筋層に覆われることがあります(Moore et al., 2018)。縦筋層の厚さは部位によって異なり、噴門部と幽門部で最も発達しています(Netter, 2019)。

筋繊維の配列と連続性

解剖学的には、縦筋層の筋繊維は主に胃の長軸に沿って配列し、食道の縦筋層から連続しています(Gray, 2020; Standring, 2021)。食道胃接合部では、一部の繊維が噴門部周囲に輪状に配列して噴門括約筋の形成に寄与します(Drake et al., 2020)。また、幽門側では筋繊維が集束して肥厚し、幽門括約筋の形成に重要な役割を果たします(Standring, 2021; Moore et al., 2018)。この筋繊維の配列パターンは、胃の蠕動運動と内容物の推進において重要な機能的意義を持ちます(Sanders et al., 2014)。

組織学的特徴

組織学的には、縦筋層は平滑筋細胞で構成され、これらの細胞は紡錘形で単核を有します(Mescher, 2021)。平滑筋細胞間にはギャップ結合が存在し、これにより電気的興奮が細胞間を伝播します(Pocock and Richards, 2019)。また、筋層内には自律神経の神経叢であるアウエルバッハ神経叢(myenteric plexus)が存在し、消化管運動の調節に重要な役割を果たします(Furness, 2012)。

生理的機能

機能的には、縦筋層の収縮によって胃の短縮が起こり、食物の推進に関与します(Johnson, 2018; Barrett et al., 2019)。また、胃の蠕動運動にも重要な役割を果たし、胃内容物の混合と十二指腸への排出を助けます(Hall and Hall, 2021)。この過程は消化における重要なステップとなります(Barrett et al., 2019)。縦筋層の収縮は、輪状筋層と協調して作用し、胃の効率的な運動パターンを生み出します(Sanders et al., 2014; Huizinga and Lammers, 2009)。

神経支配と調節機構

縦筋層は迷走神経(副交感神経)と交感神経による二重支配を受けています(Drake et al., 2020)。迷走神経刺激は胃の運動を促進し、交感神経刺激は抑制的に作用します(Pocock and Richards, 2019)。さらに、消化管ホルモンやペースメーカー細胞であるカハール介在細胞(interstitial cells of Cajal)も筋層の活動調節に関与します(Huizinga and Lammers, 2009; Sanders et al., 2014)。

臨床的意義

臨床的意義としては、胃の運動機能障害(胃不全麻痺など)では、この筋層の機能異常が関与することがあります(Camilleri et al., 2018; Pasricha et al., 2022)。また、胃切除術や胃バイパス術などの外科的処置では、縦筋層の解剖学的走行を理解することが手術の成功に重要です(Townsend et al., 2017)。さらに、食道胃逆流症(GERD)では、下部食道括約筋と連続する縦筋層の機能不全が病態に関与することがあります(Gyawali et al., 2018; Katz et al., 2013)。胃癌の進行度評価においても、腫瘍の筋層への浸潤深度は重要な予後因子となります(Japanese Gastric Cancer Association, 2021)。

参考文献