

噴門は、食道の下端が胃に移行する解剖学的接合部であり、解剖学的には胃食道接合部(gastroesophageal junction: GEJ)と呼ばれます(Gray et al., 2020; Standring, 2020)。その位置は通常、横隔膜食道裂孔の約2cm下方、第11胸椎の高さに位置しており(Moore et al., 2018)、左側第7肋軟骨と胸骨の接合部のやや左側に相当します(Drake et al., 2019)。この部位は胸腹境界部に位置するため、横隔膜の運動や呼吸による影響を受けやすい特徴があります(Netter, 2018)。
組織学的には、食道の重層扁平上皮(stratified squamous epithelium)から胃の単層円柱上皮(simple columnar epithelium)への移行部として特徴づけられます(Eroschenko, 2017)。この移行部はZ線(squamocolumnar junction)と呼ばれ、内視鏡検査で明確に観察できます(Kuo and Urma, 2019)。噴門部の粘膜には噴門腺(cardiac glands)が存在し、主に粘液を分泌することで食道粘膜を胃酸から保護しています(Ross and Pawlina, 2020)。粘膜固有層には豊富なリンパ組織が分布し、免疫防御機構の一翼を担っています(Young et al., 2016)。
噴門には解剖学的に明確な括約筋は存在しませんが、生理学的には「下部食道括約部(lower esophageal sphincter: LES)」と呼ばれる高圧帯が形成されています(Mittal and Balaban, 2021)。これは食道下部の輪状筋層の緊張、横隔膜脚の圧迫、噴門部の斜走筋(His角)などの複合的要素によって維持され、胃内容物の食道への逆流を防止しています(Boeckxstaens et al., 2014)。LESの静止圧は通常10-30mmHgであり(Pandolfino and Kahrilas, 2018)、嚥下時には一過性に弛緩することで食塊の通過を可能にします(Goyal and Chaudhury, 2008)。また、His角(angle of His)と呼ばれる食道と胃底部との間の鋭角は、胃内圧上昇時に生理的な弁機構として機能します(Mittal, 2016)。
臨床的には、この領域は胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease: GERD)、Barrett食道(Barrett's esophagus)、噴門部腺癌(cardiac adenocarcinoma)などの病態と密接に関連しています(Kahrilas, 2022; Spechler and Souza, 2014)。また、加齢や肥満、食道裂孔ヘルニアなどによりLES圧が低下すると、逆流性食道炎の原因となります(Gyawali et al., 2018)。噴門弛緩不全症(achalasia)では、LESの弛緩障害により嚥下障害や食道拡張が生じます(Vaezi et al., 2013)。さらに、噴門部は食道癌と胃癌の境界領域であり、腫瘍の分類や治療方針の決定において重要な解剖学的ランドマークとなっています(Siewert and Stein, 1998)。