筋層(食道の)Tunica muscularis oesophageae

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J0683 (頭蓋骨の筋:後方からの図)

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J0687 (胃の筋層(浅層):前方からの図)

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J0688 (胃の筋層:前方から見た中層と深層)

食道の筋層は、解剖学的に以下の特徴を持ちます(Gray and Lewis, 2020; Standring, 2021):

構造と配列

**筋組成の部位別分布:**食道筋層は上部1/3が横紋筋(随意筋)、中部1/3が横紋筋と平滑筋の混合、下部1/3が平滑筋(不随意筋)で構成されています(Kahrilas, 2017; Mittal and Balaban, 1997)。この特徴的な構成は、咽頭から胃への食塊輸送における随意的制御から不随意的制御への移行を反映しています(Goyal and Chaudhury, 2008)。

**筋層の配列:**食道筋層は二層構造を形成し、外層は主に縦走筋層(stratum longitudinale)、内層は主に輪状筋層(stratum circulare)から成ります(Standring, 2021; Mittal and Goyal, 2006)。上部食道では筋束の配列がやや不規則ですが、下部に向かうにつれて明瞭な二層構造となります(Yamamoto et al., 2003)。

**筋層の厚さ:**食道筋層の厚さは部位により異なり、上部食道で約2-3mm、下部食道で約3-4mmです(Takubo, 2007)。輪状筋層は縦走筋層よりも厚く、特に下部食道括約筋(lower esophageal sphincter; LES)領域では輪状筋の肥厚が顕著です(Mittal and Balaban, 1997)。

神経支配

**外来神経支配:**食道筋層は迷走神経(nervus vagus)により支配され、運動線維は疑核(nucleus ambiguus)および背側運動核(dorsal motor nucleus)から起始します(Bieger and Neuhuber, 2006)。上部食道の横紋筋は疑核からの体性運動神経により直接支配されますが、下部食道の平滑筋は副交感神経性の節前線維を介して支配されます(Goyal and Chaudhury, 2008)。

**壁内神経叢:**食道筋層には筋層間神経叢(myenteric plexus; Auerbach神経叢)が存在し、アセチルコリン作動性ニューロン、一酸化窒素(NO)作動性ニューロン、VIP作動性ニューロンなどから構成されます(Wörl and Neuhuber, 2005)。これらの神経叢は蠕動運動の協調的制御に重要な役割を果たします(Mittal and Goyal, 2006)。

機能

**蠕動運動:**食道筋層は蠕動運動(peristalsis)を通じて食塊を口腔から胃へと運搬します(Goyal and Chaudhury, 2008)。この運動は一次蠕動(primary peristalsis)と二次蠕動(secondary peristalsis)に分けられます。一次蠕動は随意的な嚥下により誘発され、咽頭期の嚥下反射に引き続いて開始されます(Kahrilas et al., 1988)。二次蠕動は食塊の残留や逆流により機械的に誘発される反射的な運動です(Sifrim et al., 2001)。

**蠕動波の伝播:**正常な蠕動波は咽頭から胃方向へ約3-4cm/秒の速度で伝播し、収縮圧は遠位食道で50-180mmHgに達します(Pandolfino and Kahrilas, 2010)。蠕動運動の協調は壁内神経叢と平滑筋の筋原性特性により制御されています(Mittal and Goyal, 2006)。

**下部食道括約筋機能:**下部食道の輪状筋肥厚部は機能的下部食道括約筋(LES)を形成し、安静時に10-30mmHgの基礎圧を維持することで胃食道逆流を防止します(Mittal and Balaban, 1997)。嚥下時にはLESが弛緩し、食塊の胃内通過を可能にします(Goyal and Chaudhury, 2008)。

臨床的意義

以下の疾患は食道筋層の機能異常または構造異常と関連しています(Vaezi et al., 2018; Gyawali et al., 2018):