咽頭縫線 Raphe pharyngis

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J0683 (頭蓋骨の筋:後方からの図)

定義と解剖学的特徴

咽頭縫線は、左右の咽頭収縮筋(上・中・下咽頭収縮筋)が後正中線で合わさる白色の線維性結合組織です(Gray and Standring, 2021; Moore et al., 2018)。頭蓋底から食道入口部まで垂直に伸びており、頭蓋底の咽頭結節(pharyngeal tubercle)を起始とし、頚椎前面を下行して食道後壁に移行します(Standring, 2020)。

組織学的には、咽頭縫線は緻密結合組織から構成され、膠原線維が縦走することで左右の咽頭収縮筋の強固な付着を可能にしています(Netter, 2019)。この線維性構造は、咽頭後壁の支持組織として機能し、咽頭前椎筋膜(prevertebral fascia)と密接な関係にあります(Drake et al., 2020)。

機能的役割

解剖学的には、咽頭縫線は咽頭筋の重要な付着部となっており、特に左右の咽頭収縮筋が後方で合流する場所として機能します(Moore et al., 2018; Skandalakis et al., 2004)。この構造により、咽頭は嚥下時に適切に収縮することができます。

嚥下の咽頭期において、咽頭縫線は咽頭収縮筋の協調的収縮の支点として機能し、食塊を食道へと推進する蠕動様運動を可能にします(Logemann, 1998; Palmer et al., 2000)。また、咽頭縫線の上部は上咽頭収縮筋と口蓋咽頭筋の付着部となっており、下部は輪状咽頭筋(下咽頭収縮筋の一部)の起始部となっています(Sinnatamby, 2011)。

生体力学的には、咽頭縫線は嚥下時に約50-100mmHgの咽頭内圧上昇に耐える構造強度を持ち、加齢や神経筋疾患によりこの力学的特性が変化することが知られています(Cook et al., 1989; Kahrilas et al., 1992)。

臨床的意義

臨床的には、咽頭縫線は嚥下障害の評価や治療において重要な指標となります(Logemann, 1998, 2010)。特に、咽頭筋の協調運動障害や咽頭収縮不全などの嚥下障害の診断において、咽頭縫線の位置や動きを評価することがあります。ビデオ嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)では、咽頭縫線付近の食塊残留や咽頭収縮不全が重要な評価項目となります(Langmore, 2001)。

また、咽頭憩室(Zenker憩室など)は咽頭縫線の近傍、特に下咽頭収縮筋と輪状咽頭筋の間のKillian三角部に発生することが多く、嚥下圧と解剖学的弱点が関連しています(Cook and Kahrilas, 1999; Watemberg et al., 1999)。Zenker憩室は高齢者に多く、嚥下困難、誤嚥、口臭などの症状を呈します(Cook et al., 2015)。

さらに、上咽頭癌などの悪性腫瘍の進展経路としても重要な解剖学的指標となります(Wei and Sham, 2005)。上咽頭癌は咽頭後壁や咽頭縫線を越えて頚椎前面へと進展することがあり、画像診断における重要な評価ポイントです(King et al., 2000)。また、咽頭癌の外科的切除後の再建においても、咽頭縫線の解剖学的位置の理解は重要です(Shah and Patel, 2003)。

参考文献