

解剖学的特徴
垂直舌筋は、舌背の粘膜から舌下面に向かって垂直に走行する筋線維群である(Standring, 2021)。舌の内在筋の一つで、上方から下方へと放射状に広がっている(Abd-El-Malek, 1939)。組織学的には横紋筋繊維で構成され、筋線維の直径は約30-50μmである(Mu and Sanders, 2010)。筋線維は舌背粘膜直下の結合組織層から起始し、舌下面の粘膜下層に停止する(Sanders and Mu, 2013)。
位置と走行
主に舌体部に存在し、舌背粘膜から舌下面へと垂直方向に筋線維が配列している(Takemoto, 2001)。他の内在筋(横舌筋、上縦舌筋、下縦舌筋)と三次元的に交錯して複雑な筋構造を形成している(Mu and Sanders, 2010)。垂直舌筋の筋線維密度は舌の前方3分の2で最も高く、舌根部では相対的に少ない(Gilbert et al., 2007)。
機能
神経支配
舌下神経(第XII脳神経)の支配を受けている(Mu and Sanders, 2010)。この神経は純粋な運動神経で、延髄の舌下神経核から起始し、舌の随意運動を制御する(Kiernan et al., 2013)。舌下神経は舌筋内で広範に分枝し、各筋線維に対して神経筋接合部(運動終板)を形成する(Sanders and Mu, 2013)。垂直舌筋への神経分布密度は他の舌内在筋と同程度である(Mu and Sanders, 2010)。
臨床的意義
検査と評価
神経疾患では、舌の運動評価(突出、側方運動、挙上など)を行うことで垂直舌筋を含む舌筋群の機能を間接的に評価する(Lazarus, 2017)。画像検査では、MRIによる舌筋の形態評価が有用であり、筋萎縮や脂肪変性の検出が可能である(Wattjes et al., 2006)。筋電図検査により舌筋の電気活動を直接記録することも可能である(DePaul and Brooks, 1993)。機能評価として、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査により舌の運動パターンを観察する(Matsuo and Palmer, 2008)。
発生学
垂直舌筋は後頭筋節(occipital somites)から派生する中胚葉性組織から発生し、胎生期の舌形成過程で分化する(Sadler, 2019)。胎生6週頃から舌原基が形成され、胎生8週までに筋芽細胞が舌内に遊走する(Patten, 1961)。垂直舌筋の筋線維の配列は胎生12週頃から明瞭になる(Huang et al., 1993)。舌下神経の伸長と筋への神経支配は胎生7-8週に確立される(Mu and Sanders, 2010)。
比較解剖学
哺乳類全般に認められる筋であり、種による変異はあるが、基本的な配列は保存されている(Doran, 1975)。特に霊長類では発達しており、複雑な舌運動と精密な構音を可能にしている(Doran, 2018)。食肉目では垂直舌筋の発達が比較的弱いのに対し、有蹄類では発達している(Sonntag, 1925)。ヒトでは他の哺乳類と比較して垂直舌筋の筋線維密度が高く、これは言語機能との関連が示唆される(MacNeilage, 2008)。