下縦舌筋 Musculus longitudinalis inferior
下縦舌筋は、舌の下面に位置する内舌筋の一つで、解剖学的に重要な構造です (Standring, 2020)。以下にその詳細を記述します:
解剖学的特徴
- 起始:舌骨小角および舌骨体からの線維束として起こり、一部は舌盲孔付近の粘膜下から起始します (Drake et al., 2019)。
- 走行:舌の下面を前方に向かって走行し、舌尖に達します。筋束は左右対称に配置されています (Netter, 2018)。
- 位置関係:舌下神経(第XII脳神経)の外側、顎舌骨筋の内側に位置し、茎突舌筋とも近接しています (Moore et al., 2022)。
- 深さ:舌粘膜の直下ではなく、より深層に位置しており、断面では舌下面近くに明確に観察できます (Sinnatamby, 2021)。
- 筋線維構成:横紋筋で、他の舌筋と同様に随意的な制御が可能です (Paulsen and Waschke, 2018)。
機能
- 舌の後退:収縮すると舌を後方に引き戻します (Standring, 2020)。
- 舌尖の下方屈曲:舌尖を下方に巻き込む動作に関与します (Sanders and Mu, 2019)。
- 舌の短縮:舌を前後方向に短くする働きがあります (Drake et al., 2019)。
- 舌下面の形成:下面を凹状に変形させることができます (Moore et al., 2022)。
臨床的意義
- 舌下神経麻痺:下縦舌筋を含む舌筋群が障害されると、構音障害や嚥下障害が生じます (Doty and Bosma, 2021)。
- 舌運動障害:脳卒中や神経変性疾患で障害されると、発音障害や食物の操作困難が現れます (González-Fernández et al., 2018)。
- 睡眠時無呼吸症候群:舌筋の緊張低下が気道閉塞の一因となることがあります (Schwab et al., 2017)。
下縦舌筋は発話、嚥下、咀嚼など日常的な口腔機能において精密な舌の動きを制御する上で重要な役割を果たしており、これらの機能障害の評価や治療において臨床的に重要な構造です (Mu and Sanders, 2020)。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2019) 'Gray's Anatomy for Students', 4th ed. Elsevier.