舌尖 Apex linguae

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J0659 (舌:上方からの図)

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J0662 (新生児の舌を正中付近で矢状断した図)

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J0667 (舌の下側と周囲、舌先を上げた状態の図)

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J0668 (粘膜を取り除いた後の舌の下面と周囲、舌の先端が上がっている図)

解剖学的特徴

舌尖とは、舌(舌体 Corpus linguae)の先端部分を指す。解剖学的には、舌の前端部に位置し、舌体の前方1/3を構成する(Standring, 2021)。舌尖は非常に可動性が高く、様々な方向に動かすことができ、発音や食物の操作に重要な役割を果たす(Drake et al., 2020)。舌尖の運動は主に内舌筋(intrinsic muscles of the tongue)によって制御され、特に上縦舌筋(Musculus longitudinalis superior)と下縦舌筋(Musculus longitudinalis inferior)が舌尖の屈曲や伸展に関与する(Moore et al., 2018)。神経支配は舌下神経(Nervus hypoglossus, CN XII)が運動を、舌神経(Nervus lingualis)が一般感覚を担当し、舌尖前方2/3の味覚は顔面神経(Nervus facialis, CN VII)の鼓索神経(Chorda tympani)によって伝達される(Netter, 2019)。

組織学的特徴

組織学的には、舌尖は重層扁平上皮(stratified squamous epithelium)で覆われており、その下には固有層(lamina propria)、筋層が存在する(Ross and Pawlina, 2018)。舌尖の表面には多数の糸状乳頭(Papillae filiformes)と茸状乳頭(Papillae fungiformes)が分布している(Kierszenbaum and Tres, 2020)。特に茸状乳頭には味蕾(taste buds)が多く含まれ、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の受容に関与している(Standring, 2021)。糸状乳頭は角化した構造を持ち、機械的な食物の操作を補助する一方、茸状乳頭は非角化性で、その上皮内に味蕾が埋め込まれている(Mescher, 2021)。固有層には豊富な血管網と神経終末が存在し、舌尖の高い感覚鋭敏性を支えている(Young et al., 2014)。

臨床的意義

臨床的には、舌尖は視診が容易なため、全身疾患の徴候が現れやすい部位である(Neville et al., 2015)。例えば、鉄欠乏性貧血では舌尖を含む舌全体が蒼白化し、萎縮性変化を呈することがある(Kumar et al., 2021)。ビタミンB12欠乏症では舌炎(glossitis)が生じ、舌尖に発赤や萎縮、疼痛が認められる(Greenberg et al., 2019)。また、プランマー・ビンソン症候群(Plummer-Vinson syndrome)では鉄欠乏に伴い舌炎や口角炎が特徴的に見られる(Regezi et al., 2017)。舌癌(tongue carcinoma)は舌縁や舌尖に好発し、初期には小潰瘍や硬結として現れるため、早期発見が予後改善に重要である(Kumar et al., 2017)。舌尖の外傷や咬傷も日常的に見られ、特に小児や痙攣発作時に生じやすい(Scully, 2013)。さらに、舌小帯短縮症(ankyloglossia)では舌尖の運動制限が生じ、授乳困難や発音障害の原因となることがある(Srinivasan et al., 2019)。

参考文献