乳歯 Dentes decidui

J645.png

J0645(右の脱落歯: 唇または頬側からの図)

J646.png

J0646 (3〜4歳の子供の乳歯が付いた下顎骨)

J647.png

J0647 (3〜4歳の子供の乳歯が付いた上顎骨)

J648.png

J0648 (約5歳小児の顔の骨、乳歯と永久歯の露出した構造、右側から少し前方からの図)

1. 基本解剖学

乳歯は人間の歯の発生において最初に出現する20本の歯であり、解剖学的に重要な特徴を持っています(Nelson and Ash, 2010)。乳歯列は上下顎それぞれに左右対称に5本ずつ配列され、各象限は切歯2本(内側切歯medial incisorと外側切歯lateral incisor)、犬歯1本(canine)、乳臼歯2本(第1乳臼歯first primary molarと第2乳臼歯second primary molar)で構成されます(Dean et al., 2021)。乳歯の歯式はFDI(国際歯科連盟)方式では51-55(右上顎)、61-65(左上顎)、71-75(左下顎)、81-85(右下顎)と表記され、臨床記録における標準化された識別システムとなっています(Pinkham et al., 2013)。

2. 萌出順序と発育時期

乳歯の萌出順序は発生学的に決定されており、明確な時系列パターンに従います(Koch et al., 2017)。萌出時期には個人差がありますが、一般的な平均値として以下の順序が報告されています:

萌出の遅延(6ヶ月以上の遅れ)は全身性疾患、栄養障害、内分泌異常などの可能性を示唆するため、小児科医や小児歯科医による評価が推奨されます(Dean et al., 2021)。

3. 特徴的解剖構造

解剖学的特徴として、乳歯は永久歯と比較して以下の顕著な相違点を示します。歯冠は永久歯に対して相対的に幅広く(特に近遠心径において)、エナメル質の厚さは約1mm(永久歯の約半分)、象牙質層も薄いため全体的な色調が青白く見えます(Berkovitz et al., 2017)。歯髄腔は歯冠の大きさに対して相対的に大きく、特に髄角が高位に位置するため、齲蝕の進行が歯髄に達しやすい臨床的特徴があります(Pinkham et al., 2013)。歯根は細長く扁平な形態を示し、エナメル・セメント境界部(cervical line)での縊れが顕著です(Nelson and Ash, 2010)。

特に乳臼歯の歯根は永久歯の前臼歯に比べて広がっており(divergent roots)、この空間に後継永久歯の歯胚を抱えるような三次元的配置となっています(Berkovitz et al., 2017)。乳前歯の歯根は永久前歯より細く、長さも短い特徴を持ちます。歯根形成は萌出後も継続し、完全な根尖形成には萌出後1.5〜2年を要します(Koch et al., 2017)。

4. 臨床的重要性と咬合発達

第2乳臼歯は臨床的に極めて重要な役割を果たし、永久歯の第2小臼歯に比べて頬側幅径が約2.5mm大きいという解剖学的特徴があります(Pinkham et al., 2013)。この寸法差は「リーウェイスペース(leeway space)」と呼ばれ、上顎で平均0.9mm、下顎で平均1.7mm(片側)の空間を提供し、永久歯列への移行時に第一大臼歯の近心移動を可能にし、正常咬合の確立に寄与します(Proffit et al., 2018)。

上下顎の第2乳臼歯遠心面間の位置関係はターミナルプレーン(terminal plane)と呼ばれ、永久歯列における第一大臼歯の咬合関係を予測する重要な指標となります(Baume, 1950)。ターミナルプレーンは以下の3種類に分類されます: