乳歯 Dentes decidui

1. 基本解剖学

乳歯は人間の歯の発生において最初に出現する20本の歯であり、解剖学的に重要な特徴を持っています(Nelson and Ash, 2010)。乳歯列は上下顎それぞれに左右対称に5本ずつ配列され、各象限は切歯2本(内側切歯と外側切歯)、犬歯1本、乳臼歯2本(第1乳臼歯と第2乳臼歯)で構成されます。

2. 萌出順序

乳歯の萌出順序は発生学的に決定されており、明確な時系列パターンに従います(Koch et al., 2017):

3. 特徴的解剖構造

解剖学的特徴として、乳歯は永久歯と比較して歯冠が幅広く、エナメル質が薄く(約1mm)、象牙質層も薄いため色調が青白く見えます(Berkovitz et al., 2017)。歯髄腔が相対的に大きく、歯根は細長く扁平な形態を示します。特に乳臼歯の歯根は永久歯より広がっており、後継永久歯の歯胚を抱えるような配置となっています。

4. 臨床的重要性

第2乳臼歯は臨床的に極めて重要で、永久歯の第2小臼歯に比べて頬側幅径が大きいという解剖学的特徴があります(Pinkham et al., 2013)。これは「リーウェイスペース」と呼ばれる空間を確保し、永久歯列への移行時に第一大臼歯の近心移動を可能にします。上下顎の第2乳臼歯遠心面間の関係はターミナルプレーンと呼ばれ、アングルの咬合分類の基礎となり、永久歯列における第一大臼歯の咬合関係を決定づけます。ターミナルプレーンは垂直終末面、近心ステップ、遠心ステップの3種類に分類され、将来の咬合発達に重大な影響を与えます(Proffit et al., 2018)。

5. 管理と臨床応用

臨床的には、乳歯の早期喪失は永久歯列の不正咬合リスクを高めるため、齲蝕予防と適切な管理が小児歯科において重要視されています(Dean et al., 2021)。また、乳歯の歯根吸収メカニズムは、歯の生理的交換における重要な生物学的プロセスとして研究されています(Harokopakis-Hajishengallis, 2007)。

参考文献