
1. 解剖学的特徴
頬腺は口腔の重要な小唾液腺であり、口唇腺の連続部分として位置づけられています(Cutright and Bauer, 1962; Seifert and Donath, 1977)。組織学的には口唇腺と類似しており、主に粘液性腺房から構成される純粘液腺です(Tandler et al., 1994; Tucker, 2007)→ 頬腺の腺房細胞は明るい細胞質とbasally located nucleiを特徴とし、豊富なムチン顆粒を含む粘液細胞で構成される。これらの腺は唾液の分泌を通じて口腔内の湿潤環境の維持、初期消化、および口腔粘膜の保護に寄与しています(Pedersen et al., 2002; Humphrey and Williamson, 2001)→ 分泌される粘液性唾液は糖タンパク質であるムチンを豊富に含み、口腔粘膜の潤滑と保護膜形成に重要な役割を果たす。
2. 位置と分布
解剖学的には、頬腺は頬粘膜の固有層および粘膜下層に位置し、頬筋の外側表面に分布しています(Squier and Brogden, 2011; Bath-Balogh and Fehrenbach, 2011)→ 頬腺は散在性に分布し、頬粘膜全体に不規則に配置されるが、特に臼歯部に密度が高い。小林(1958)の研究によれば、頬腺は耳下腺管(ステノン管)を基準に前部と後部に区分されます。前部頬腺は上唇部の口唇腺の後方に存在し、後部頬腺は耳下腺管の後方に位置しています(Kobayashi, 1958; Korsrud and Brandtzaeg, 1980)→ 前部頬腺は通常4-5個の腺葉から構成され、後部頬腺(臼歯腺とも呼ばれる)はより大型で、上顎第二大臼歯と第三大臼歯の高さに位置する。Hand et al.(1999)によると、これらの腺の導管は頬粘膜を貫通して口腔内に開口しています(Hand et al., 1999; Holmberg and Hoffman, 2014)→ 各腺小葉から発する小導管は合流して主導管を形成し、頬粘膜表面に単独または複数の開口部を持つ。
3. 組織学的構造
頬腺の微細構造は、粘液性腺房、介在導管、線条導管、および排出導管から構成されます(Young et al., 2014; Ellis, 2020)→ 介在導管と線条導管は小唾液腺では大唾液腺と比較して短く発達が限定的である。腺房細胞は明るく染色される細胞質と基底部に位置する核を持ち、頂端部にはムチン顆粒が豊富に存在します(Nanci, 2018; Kerr, 2010)→ 電子顕微鏡観察では、粗面小胞体とゴルジ装置が発達し、分泌顆粒は低電子密度を示す。筋上皮細胞は腺房を取り囲み、収縮により分泌を促進します(Garrett, 1999; Tandler et al., 2001)。
4. 生理学的機能
頬腺は持続的な基礎分泌を行い、口腔内の恒常的な湿潤環境の維持に寄与します(Pedersen et al., 2002; Carpenter, 2013)→ 大唾液腺が刺激依存性分泌を主とするのに対し、小唾液腺は非刺激時においても一定の分泌を維持する。分泌される粘液性唾液には、ムチン(MUC5BおよびMUC7)、分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチームなどが含まれます(Tabak, 1995; Amerongen and Veerman, 2002)→ これらの成分は口腔粘膜の保護、抗菌作用、創傷治癒促進に関与する。頬腺の分泌は副交感神経と交感神経の二重支配を受けており、主に副交感神経刺激により増加します(Proctor and Carpenter, 2007; Garrett et al., 1999)。
5. 臨床的意義
臨床的には、頬腺は口腔内の粘液分泌において重要な役割を果たしており、唾液分泌低下(口腔乾燥症)の症例では機能不全を起こすことがあります(Eliasson and Carlén, 2010; Villa et al., 2015)→ シェーグレン症候群や薬剤性口腔乾燥症では、小唾液腺の機能低下により粘膜の乾燥と不快感が生じる。また、頬腺は頬粘膜下の粘液嚢胞(粘液瘤)の発生部位となることがあり、口腔外科的処置の対象となることもあります(Jensen, 2000; Chi et al., 2011)→ 粘液嚢胞は導管の損傷や閉塞により生じ、貯留嚢胞と漏出性嚢胞に分類される。放射線治療後の唾液腺障害においても、大唾液腺と共に影響を受けることが知られています(Vissink et al., 2003; Dirix et al., 2006)→ 頭頸部癌の放射線治療では、照射野内の小唾液腺も照射され、不可逆的な腺房細胞の破壊と線維化が生じる。頬腺の腫瘍性病変は稀ですが、多形腺腫や粘表皮癌などが報告されています(Pires et al., 2007; Ito et al., 2005)。