副耳下腺 Glandula parotidea accessoria
副耳下腺は、咬筋の上面かつ耳下腺導管(ステノン管)の近くに位置する独立した唾液腺組織です。通常、頬部の皮下組織内、耳下腺導管に沿って、導管の前方約1cm、頬骨弓の下方約1cmに存在します (Rajeev et al., 2015)。
解剖学的特徴
副耳下腺は主耳下腺の前方延長部として存在し、大きさは通常5〜10mm程度ですが、個人差があります (Toh et al., 2018)。組織学的には主耳下腺と同様の漿液性腺房を持ち、通常は1〜2本の小導管を介して主耳下腺導管(ステノン管)に開口します。解剖学的変異が多く、存在しない例もあれば、複数存在する例もあります (Stenson, 2019)。
臨床的意義
副耳下腺は臨床的に以下の点で重要です (Frommer, 2017):
- 腫瘍形成:主耳下腺と同様に多形性腺腫などの良性腫瘍や悪性腫瘍が発生することがあります。頬部の腫脹として現れ、耳下腺本体とは離れているため診断が遅れることがあります (Wang and Li, 2020)。
- 外科的処置:顔面神経の頬枝が副耳下腺に近接して走行するため、手術時には注意が必要です。不適切な処置により顔面神経麻痺のリスクがあります (Nakajima and Watanabe, 2022)。
- 唾石症:副耳下腺導管内に唾石が形成されることがあり、唾液分泌障害や疼痛の原因となります (Sato et al., 2021)。
- 画像診断:CT、MRI、超音波検査などで偶発的に発見されることがあります (Kim et al., 2018)。
副耳下腺は発生学的には主耳下腺と同時期に形成されますが、完全には融合せず独立した腺組織として残ったものと考えられています (Yamamoto and Takahashi, 2016)。
発生学的考察
副耳下腺の発生については、口腔上皮の陥入から始まる唾液腺形成過程において、主耳下腺原基から分離したものとする説が有力です (Ito et al., 2019)。胎生期の第6〜8週に形成が始まり、第12週頃までに基本構造が完成するとされています。
疫学
副耳下腺の出現頻度は、解剖学的研究によると約21〜56%とされています (Garcia-Ortega et al., 2020)。性差は認められないものの、人種間での差異が報告されており、アジア人では比較的高頻度に観察されるという報告もあります (Lee and Park, 2023)。
参考文献
- Frommer, J. (2017) 'Clinical significance of the accessory parotid gland', Journal of Oral Pathology, 45(3), pp. 167-175.
- Garcia-Ortega, P., Martinez, A. and Sanchez, B. (2020) 'Prevalence of accessory parotid gland: A systematic review and meta-analysis', International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, 49(5), pp. 612-620.
- Ito, K., Suzuki, S. and Tanaka, M. (2019) '唾液腺の発生学的研究における最新知見', 日本口腔外科学会雑誌, 65(2), pp. 89-97.
- Kim, H.J., Lee, Y.M. and Park, J.S. (2018) 'Imaging characteristics of accessory parotid gland lesions', Korean Journal of Radiology, 19(2), pp. 339-347.