口蓋 Palatum

口蓋は、口腔の上壁を形成する解剖学的構造物で、鼻腔と口腔を分離する重要な役割を担っています(Standring, 2020)。解剖学的特徴と臨床的意義について以下に詳述します。

J111.png

J0111 (19cm長胎児(5ヶ月の初め)の口蓋:下方からの図)

J672.png

J0672 (口腔:前方からの図)

J673.png

J0673 (口蓋:粘膜を取り除いた後に下方からの図)

J680.png

J0680 (咽頭と喉頭の筋:後方から見た図)

J681.png

J0681 (口蓋の筋:後方からの図)

解剖学的構造

硬口蓋(Palatum durum)

硬口蓋は口蓋の前方約2/3を占め、骨性の基盤として上顎骨の口蓋突起(processus palatinus maxillae)と口蓋骨の水平板(lamina horizontalis ossis palatini)から構成されています(Moore et al., 2018)。これらの骨は正中線で口蓋正中縫合(sutura palatina mediana)を形成し、前方では切歯縫合(sutura incisiva)によって上顎骨の歯槽突起と連続しています。

骨表面は骨膜で覆われ、その上に粘膜固有層と重層扁平上皮から成る口蓋粘膜が密着しています。粘膜下組織には多数の小唾液腺(口蓋腺、glandulae palatinae)が存在し、口腔内の湿潤を保つための粘液を分泌します(Drake et al., 2020)。硬口蓋の前部正中には切歯乳頭(papilla incisiva)があり、その両側には3〜5本の横走する口蓋襞(plicae palatinae transversae)が認められます。これらの襞は個人差が大きく、個人識別の指標として法医学的に利用されることがあります(Caldas et al., 2007)。

軟口蓋(Palatum molle)

軟口蓋は口蓋の後方約1/3を占める可動性の筋性構造物で、口蓋帆(velum palatinum)とも呼ばれます(Netter, 2019)。その基盤は線維性の口蓋腱膜(aponeurosis palatina)で、これは硬口蓋の後縁から連続しています。この腱膜に複数の筋肉が付着し、軟口蓋の運動を可能にしています。

軟口蓋を構成する主要な筋肉は以下の通りです:

軟口蓋の正中部は下方へ細長く延びて口蓋垂(uvula palatina)を形成します。口蓋垂は主に口蓋垂筋と結合組織、粘液腺から構成されており、その長さと形状には著しい個人差があります(Drake et al., 2020)。

血管供給

口蓋への動脈血供給は主に以下の動脈によって行われます(Standring, 2020):