消化器;消化器系

消化器系(Alimentary system/Digestive system)は、食物の摂取から消化、吸収、そして排泄までの過程を担う複雑な器官系です。この系統は解剖学的に消化管(alimentary canal)と付属消化腺に大別されます(Moore et al., 2018)。

【解剖学的構成】

  1. 消化管:口腔(oral cavity)から始まり、咽頭(pharynx)、食道(esophagus)、胃(stomach)、小腸(small intestine:十二指腸、空腸、回腸)、大腸(large intestine:盲腸、結腸、直腸)、肛門(anus)へと続く約9mの管状構造です(Standring, 2020)。各部位は特殊化した上皮組織と筋層を持ち、蠕動運動により内容物を移動させます。
  2. 付属消化腺:主要なものとして唾液腺(salivary glands:耳下腺、顎下腺、舌下腺)、肝臓(liver)、胆嚢(gallbladder)、膵臓(pancreas)があり、消化酵素や胆汁などの分泌物を産生します(Drake et al., 2019)。

【機能的側面】

消化器系の主要機能は、複雑な食物を分解し、吸収可能な栄養素に変換することです。この過程は機械的消化と化学的消化の両方を含みます(Boron and Boulpaep, 2016)。

【臨床的意義】

消化器系は多くの疾患の発生部位となります。食道炎や胃炎、消化性潰瘍、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、胆石症、膵炎、各種消化器癌などが代表的です(Yamada et al., 2018)。特に日本人においては胃癌や大腸癌の発生率が高く、定期的な内視鏡検査やCT検査による早期発見が重要です。

【神経支配と微生物環境】

消化器系は自律神経系(交感神経と副交感神経)の二重支配を受けており、ストレスによる機能障害も頻繁に見られます(Furness, 2012)。さらに、近年では腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が全身の健康状態に与える影響も注目されています(Knight et al., 2017)。

【免疫学的役割】

消化器系は単なる栄養素の消化吸収だけでなく、免疫系の重要な部分としても機能しており、粘膜関連リンパ組織(MALT)を通じて病原体に対する防御機構を形成しています(Mowat and Agace, 2014)。

【参考文献】