上腕三頭筋の腱下包 Bursa subtendinea musculi tricipitis brachii

上腕三頭筋の腱下包は、上腕三頭筋の停止腱と肘頭(olecranon)との間に位置する滑液包です。解剖学的には後方肘部に位置し、上腕三頭筋が尺骨の肘頭に付着する部位に存在します(Gray, 2020)。

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J0479 (右前腕の筋(深層):背面図)

解剖学的構造と機能

滑液包とは、骨、腱、靭帯などの組織間の摩擦を軽減し、滑らかな動きを可能にする、滑液(synovial fluid)で満たされた小さな袋状構造です(Standring, 2021)。この滑液は、ヒアルロン酸を含む粘稠な液体で、潤滑剤として機能します。上腕三頭筋の腱下包は、肘関節の伸展時に腱と肘頭(骨)の間の摩擦を減らす役割を果たします。組織学的には、内層が滑膜細胞で覆われ、外層は繊維性結合組織で構成されています(Moore et al., 2018)。

臨床的意義

この滑液包は、過度の使用や外傷により炎症を起こすことがあり、これを「上腕三頭筋滑液包炎」(triceps bursitis)と呼びます(Dines et al., 2015)。この状態は、肘頭部の腫脹、疼痛、圧痛、および肘関節の伸展時の不快感を特徴とします。特にウエイトリフティング、野球の投手、テニスプレーヤーなど、反復的な肘の伸展動作を行うアスリートに見られます。また、肘を地面に頻繁につく職業の人(例:カーペット敷設工)や、転倒や直接的な打撃による急性外傷後にも発症することがあります(Strauch et al., 2014)。治療には、安静、氷冷、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、および場合によってはステロイド注射や理学療法が含まれます。慢性的な症状が持続する場合には、外科的介入が必要となることもあります(O'Driscoll, 2019)。

解剖学的変異

この滑液包は上腕三頭筋の機能を助け、肘関節の動きを効率的にするとともに、肘関節後方の保護クッションとしても機能します(Netter, 2019)。解剖学的変異として、この滑液包が複数の小腔に分かれていたり、サイズや形状に個人差があることも報告されています(Funk et al., 2017)。

参考文献