棘下筋 Musculus infraspinatus
棘下筋は、肩関節の回旋筋腱板(ローテーターカフ)を構成する4つの筋の1つで、以下のような解剖学的特徴を持ちます(Gray, 2020; Netter, 2019):
解剖学的構造
- 起始:肩甲骨の棘下窩の約2/3から起こり、一部は肩甲棘下面にも及びます(Standring, 2021)。起始部の一部は僧帽筋に覆われています。
- 走行:外側に向かって収束し、強靭な腱となります。
- 停止:上腕骨大結節の中央部(大結節の3つの面のうちの中央面)に付着します(Moore et al., 2018)。停止部は完全に三角筋に覆われています。
- 筋膜:棘下筋膜(fascia infraspinata)という強固な筋膜に包まれており、この筋膜は肩甲棘と肩甲骨の縁から起こります。
神経・血管支配
- 神経支配:棘上切痕を通過する肩甲上神経(C5, C6)により支配されます(Agur and Dalley, 2021)。
- 血液供給:主に肩甲上動脈(肩甲横動脈)と肩甲回旋動脈からの分枝を受けます。肩甲回旋動脈は肩甲骨外側縁に沿って走行し、棘下筋に分布します(Drake et al., 2020)。
機能
- 主動作:上腕骨の外旋(外側回旋)を行います。小円筋と共同して作用します(Neumann, 2017)。
- 補助動作:肩関節の安定化に寄与し、特に上腕骨頭を関節窩内に引き寄せる役割があります(Kisner and Colby, 2018)。
- 筋力:通常、外旋力は内旋力の約2/3程度で、棘下筋は外旋力の約60%を担います(Wilk et al., 2016)。
臨床的意義
- 回旋筋腱板断裂:棘下筋腱は棘上筋腱に次いで断裂の頻度が高く、特にスポーツ選手(野球投手など)では過使用による損傷リスクがあります(Brukner and Khan, 2019)。
- インピンジメント症候群:肩峰下で棘下筋腱が圧迫されることで発生し、肩関節の痛みや可動域制限を引き起こします(Magee, 2021)。
- 筋萎縮:肩甲上神経麻痺により棘下筋の萎縮が生じると、外旋力の低下と肩関節の不安定性を引き起こします(Dutton, 2020)。
- トリガーポイント:棘下筋のトリガーポイントは、前腕の外側や手首、第4・5指に放散痛を引き起こすことがあります(Travell and Simons, 2019)。
棘下筋は解剖学的に重要であるだけでなく、肩関節のバイオメカニクスにおいて不可欠な役割を果たしており、肩関節疾患の理解と治療において重要な筋の一つです(Terry and Chopp, 2020)。