骨盤筋膜腱弓 Arcus tendineus fasciae pelvis

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J0803 (男性の右側肛門挙筋と尿生殖三角:後上方からの図)

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J0807 (恥骨前立腺靭帯:上後方からの図)

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J0808 (男性骨盤:前面からの切断面)

解剖学的構造

骨盤筋膜腱弓は、骨盤腔内の重要な解剖学的ランドマークであり、骨盤底の静的支持機構として機能する線維性の肥厚構造です(DeLancey, 1992)。この構造は、恥骨結合後方約1cmの恥骨上枝内側面から始まり、閉鎖筋筋膜上を後外側に走行し、坐骨棘に終止します。組織学的には、密な膠原線維束から構成され、骨盤内筋膜(上骨盤隔膜筋膜)の特殊化した部分と考えられています(Fritsch et al., 2012)。線維の走行方向は主に長軸方向で、一部は放射状に配列し、強靭な支持構造を形成します。

機能的役割

解剖学的に重要なのは、骨盤筋膜腱弓が肛門挙筋の主要な起始部として機能することです(Barber, 2016)。肛門挙筋の筋線維は腱弓から起始し、内側下方に向かって走行します。この構造的関係により、腱弓は骨盤底の「ハンモック」様支持構造の辺縁を形成します。また、腱弓の下縁は内閉鎖筋筋膜と接し、閉鎖管(Alcock管)を形成します。この管内を閉鎖神経・動静脈が通過します。さらに、尿生殖隔膜との関連も重要で、腱弓は前方で恥骨前立腺/恥骨膀胱筋膜と連続し、後方では直腸肛門筋膜と連続します(Norton, 2017)。膀胱頸部、前立腺基底部(男性)、膣前壁(女性)の側方支持にも関与し、これらの臓器を「懸垂」する働きがあります。

臨床的意義

臨床的意義は多岐にわたります。女性骨盤底障害においては、腱弓の脆弱化や断裂が骨盤臓器脱(POP)の重要な病態生理学的要因となります(Petros and Ulmsten, 1990)。特に、前膣壁の側方支持不全(パラバギナル欠損)では腱弓からの膣壁剥離が起こり、膀胱瘤形成に寄与します。また、分娩外傷や加齢による腱弓の弾性低下・菲薄化が進行性の骨盤底弛緩をもたらします(Dietz and Lanzarone, 2005)。男性では、前立腺全摘除術における神経温存操作時に腱弓の認識が重要です。腱弓に沿って走行する前立腺神経血管束(NVB)を損傷すると、勃起障害や排尿機能障害の原因となります(Takenaka et al., 2005)。さらに、骨盤底再建手術(仙骨膣固定術、腱弓固定術など)では、腱弓が重要な固定点として利用されます。手術時の正確な解剖学的同定と適切な縫合手技が術後機能に直接影響するため、詳細な解剖学的知識が要求されます(Maher et al., 2013)。

参考文献

東洋医学(鍼灸・漢方)との関連性

骨盤筋膜腱弓は、西洋医学的には骨盤底支持構造として理解されますが、東洋医学的観点からも重要な治療対象領域です。特に、経絡理論における任脈・督脈・衝脈といった奇経八脈や、足太陰脾経・足厥陰肝経・足少陰腎経との関連が注目されています。