
陰核提靱帯は、女性の外性器における重要な支持構造であり、陰核を恥骨結合に固定する役割を持つ結合組織の帯である(Moore et al., 2018)。解剖学的には、浅腹筋膜(Fascia abdominalis superficialis)の正中下端部が靱帯化したもので、陰核脚(Crus clitoridis)の深部に位置している(Standring, 2020)。
起始部は恥骨結合の前面であり、そこから下方へ伸びて陰核体(Corpus clitoridis)の基部背側面に付着する。この靱帯は陰核を腹壁に固定し、外生殖器の適切な位置を維持する機能を担っている(O'Connell et al., 2005)。男性の陰茎提靱帯(Ligamentum suspensorium penis)と発生学的に相同の構造であるが、女性では比較的発達が弱く、長さも短い(Baskin et al., 2018)。
陰核提靱帯の長さは個人差があるものの、通常2〜3cm程度であり、幅は約5〜8mm程度である(Di Marino and Lepidi, 2014)。靱帯は恥骨結合から陰核背側面へと扇状に広がりながら付着し、陰核を上方に引き上げる作用を持つ(Foldes and Buisson, 2009)。
組織学的には、この靱帯は主に密な不規則結合組織から構成され、弾性線維と膠原線維が豊富に含まれている(Standring, 2020)。膠原線維はI型コラーゲンが主体であり、靱帯に引張強度を与えている(DeLancey, 2016)。弾性線維の含有量は比較的少ないものの、靱帯の柔軟性に寄与している。
靱帯内には、細い血管と神経線維が分布しており、特に陰核神経(Nervus dorsalis clitoridis)の枝が靱帯に沿って走行している(Standring, 2020)。この神経支配により、靱帯の損傷や過度の牽引は疼痛を引き起こす可能性がある(Pauls, 2015)。
会陰部の外傷や産科手術、特に会陰切開や会陰裂傷の修復時に、陰核提靱帯が損傷を受ける可能性がある(Royal College of Obstetricians and Gynaecologists, 2015)。靱帯の損傷は陰核の位置異常や支持機能の低下を引き起こすことがあり、性機能障害や慢性的な会陰部痛の原因となりうる(Pauls, 2015)。
形成外科的な性別適合手術、特に男性から女性への陰核形成術(Clitoroplasty)において、この靱帯の処理が重要となる(Bizic et al., 2018)。陰茎提靱帯を適切に切除または再配置することで、新しく形成された陰核の位置と角度を調整し、より自然な外観と機能を実現することができる(Garaffa et al., 2010)。
骨盤底筋群の機能不全を伴う場合、陰核提靱帯への負担が増加し、慢性的な会陰部痛や性交痛(Dyspareunia)の原因となることがある(Vancaillie et al., 2012)。特に、骨盤臓器脱(Pelvic organ prolapse)や尿失禁を有する患者では、骨盤底全体の支持組織の脆弱化により、陰核提靱帯にも影響が及ぶ可能性がある(DeLancey, 2016)。
近年、美容外科領域において陰核包皮形成術や陰核縮小術が行われることがあるが、これらの手術では陰核提靱帯の解剖学的理解が不可欠である(Oranges et al., 2015)。不適切な手術手技は靱帯の損傷や陰核の知覚低下を引き起こすリスクがある(Miklos and Moore, 2008)。