錐体筋

日本人のからだ(堀口正治 2000)によると

錐体筋の起始は恥骨と恥骨靭帯の前面で、終止は臍と恥骨の間の白線上に位置します。その機能としては、腹部の圧縮、腹部内臓の保護、強い呼気時の働きなどがあります。神経支配は肋下神経の筋枝(第12胸神経)で、血流は下腹壁動脈の筋枝により供給されます。

錐体筋の発達は個体差があり、約20%の人には存在しないこともあります。この筋は、内外2つの腹斜筋の腱膜の間、あるいは腹直筋鞘の中を恥骨結合から白線に沿って走り、白線を緊張させることができます。

錐体筋は三角形の扁平な小筋で、腹直筋鞘の前葉が2枚に分かれた間に存在します。起始部の幅は広い場合も狭い場合もありますが、必ず恥骨上枝の恥骨結合と恥骨結節の間から起始します(森田、1933,1940)。筋束は内側上方に向かい、多くの場合(76.3%、金野・小成、1955)恥骨結合上縁と臍輪中心の間の中点より下位で白線に終止します。

この筋肉の頂点は、日本人の平均では、恥骨結合上縁と臍輪中心の間の下位1/3の高さに位置するとされています(Mori, 1964)。

日本人におけるこの筋の欠如頻度は低いと報告されています(Adachi, 1909/1910; 五十嵐・保志場,1936; 河合, 1936; 森田,1940)。左右の比較では、右側の欠如頻度が高い傾向にあります。さらに、成人よりも胎児ではこの筋の欠如頻度が低いとされています(表36)。錐体筋の変異としては、筋腹が浅深2葉に分裂した例(1.3%, 森田,1940; 1.1%, Mori,1964)、前面の筋束と後面の筋束が筋外側縁で交差する例(0.3%,森田,1940)、恥骨上縁を超えて下方へ顕著に伸長した起始腱を有する例(0.3%,森田,1940)、頂点が臍高にまで到達した例(6.1%,安藤,1938) が報告されています。

表36 成人および胎児の錐体筋欠如頻度(%)

表36 成人および胎児の錐体筋欠如頻度(%)

両側 右側 左側
欠如体側数 欠如数 欠如数 欠如数 検索体側数
日本人成人 小金井ら(1903) 6(3.1) 192
Adachi(1900) 6(3.5) 2 2 - 170
Adachi(1909/1910) 6(4.2) 3 - - 144
松島(1927) 12(7.8) 5 1 1 154
平光ら(1930) 0(0) - - - 10
日比(1932b) 2(5.0) 1 - - 40
中村(1935) 4(3.3) - 3 1 120
五十嵐・保志場(1936) 5(6.3) 1 2 1 80
河合(1936) 14(7.0) 5 4 - 200
富田(1937,1938,1939) 6(3.6) 2 2 - 166
森田(1940) 15(4.9) 5 5 - 306
森田(1947) 13(5.0) 4 5 260
金野・小成(1955) 5(5.1) 2 1 - 98
渡辺・岡崎(1962) 0(0) - - - 16
Mori(1964) 38(7.6) 12 7 7 500
Sato(1968) 77(11.0) 698
日本人胎児 河合(1936) 15(7.5) 5 5 - 200
安藤(1938) 0(O) - - - 66
小畑・杉山(1943) 0(0) - - - 60
稲垣(1947) 5(4.5) 2 1 112
梅津(1949) 5(1.8) 284
米倉(1954) 5(5.0) 1 3 100
金野・小成(1955) 0(0) - - - 62