腰椎部(横隔膜の)Pars lumbalis (Diaphragmatis)

J0433 (横隔膜:腹腔からの図)

J0584 (胸大動脈、腹側図)

J0685 (食道と気管とその周囲:前方からの図)

J0956 (腰仙骨神経叢:前方からの図)
横隔膜の腰椎部は、横隔膜の主要な起始点の一つであり、解剖学的に複雑な構造を持ち、呼吸機能や体幹の安定性に重要な役割を果たしています(Williams et al., 2015; Standring, 2016)。
1. 基本解剖学的特徴
- 左右2本の脚(左脚crus sinistrum と右脚crus dextrum)で構成されています(Gray and Lewis, 2020)。
- 左脚は第1〜第3腰椎体から起始し、右脚よりも短く細いのが特徴です(Netter, 2018)。
- 右脚は第1〜第4腰椎体から起始し、左脚よりも長く太い傾向があります(Moore et al., 2018)。
- 両脚とも椎体の前面にある前縦靭帯(anterior longitudinal ligament)に密着し、腱様に上方へ伸びています(Standring, 2016)。
腰椎部は筋性部と腱中心を連結する重要な構造であり、第12肋骨と第1〜3腰椎横突起から起始する腰肋三角筋膜(lumbocostal triangle)も含みます(Drake et al., 2019)。
2. 内側脚の微細構造
- 内側脚は2〜3の腱束から構成される場合があり、これらは内側小脚、中間小脚、外側小脚として区別されることがあります(Loukas et al., 2016)。
- 右側内側脚は主に2つの腱からなることが多く(64.7%)、単一腱(29.4%)や3つの腱(5.9%)の例もあります(加々野, 1960)。
- 左側内側脚は単一の腱(44.1%)または2つの腱(50.0%)からなる例が多く、右側と比較して構造的変異が多いとされています(島田, 1952)。
- 内側脚の起始部の位置は左右で異なり、左側が右側よりも平均して1椎体分高位に位置する傾向があります。右側は第3-4腰椎間、左側は第2-3腰椎間に相当します(宮田, 1946)。
3. 臨床的意義
- 横隔膜腰椎部には重要な神経・血管構造が貫通しており、大動脈裂孔(aortic hiatus)では腹部大動脈と胸管が、食道裂孔(esophageal hiatus)では食道と迷走神経が通過します(Sinnatamby, 2011)。
- 食道裂孔ヘルニアや横隔膜ヘルニアなどの病態と関連し、臨床的に重要な領域です(Pawlina, 2019)。
- 腰椎部の構造異常は、腰痛や呼吸機能障害に関連する可能性があります(Bordoni and Zanier, 2013)。
- 解剖学的変異は手術アプローチや画像診断において考慮すべき重要な要素です(Loukas et al., 2016)。
これらの解剖学的特徴と臨床的意義から、横隔膜の腰椎部は構造的複雑性と機能的重要性を併せ持つ領域であることがわかります。発生学的に見ても、胎児期と成人期で構造に差異が認められ、個体差も大きいことが特徴です(櫛田, 1941; 宮田, 1946)。