肩甲挙筋 Musculus levator scapulae
肩甲挙筋は、頚部と肩甲骨を結ぶ重要な筋肉であり、頚部の深層に位置する解剖学的および臨床的に重要な構造です (Moore et al., 2023)。以下にその詳細な特徴を示します:
解剖学的特徴
- 起始:上位4つの頚椎(C1-C4)の後結節(横突起後結節)から起始します (Standring, 2021)。各横突起からの筋束は独立して起こり、下行しながら1つの筋腹を形成します。
- 停止:肩甲骨上角および肩甲骨内側縁上部(肩甲棘より上方)に停止します。停止部は扇状に広がり、強固な腱膜として付着します (Drake et al., 2020)。
- 支配神経:後枝から分岐するC3、C4の神経根による直接枝を受けます。また、背側肩甲神経(C5)からの神経支配も受けることがあります (Netter, 2023)。
- 血管支配:深頚動脈、横頚動脈、および肩甲回旋動脈からの分枝により栄養されます。
機能と作用
- 主要作用:肩甲骨の挙上(約10度)と内側回転を行います (Kendall et al., 2022)。
- 共同作用:僧帽筋上部線維と協調して肩甲骨の挙上を補助します。
- 頚部の運動:頚部の側屈と同側回旋に関与します。両側性収縮では頚部伸展に作用します。
臨床的意義
- 筋緊張:デスクワークや不良姿勢により緊張が生じやすく、頚部痛や頭痛の原因となります (Simons et al., 2019)。
- トリガーポイント:筋内のトリガーポイントは後頭部から肩甲骨内側縁に放散痛を引き起こすことがあります。
- 機能障害:過緊張により頚部可動域制限や肩こりの原因となり、理学療法の重要な治療対象となります。
この筋肉は姿勢保持と頚部運動の両面で重要な役割を果たし、臨床現場では頚部痛や肩こりの治療において重要な評価・治療対象となっています (Travell and Simons, 2019)。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students, 4th ed. Philadelphia: Elsevier.
- Kendall, F.P., McCreary, E.K., Provance, P.G., Rodgers, M.M. and Romani, W.A. (2022) Muscles: Testing and Function with Posture and Pain, 6th ed. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins.
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2023) Clinically Oriented Anatomy, 9th ed. Philadelphia: Wolters Kluwer.