肩甲挙筋 Musculus levator scapulae

肩甲挙筋は、頚部と肩甲骨を結ぶ重要な筋肉であり、頚部の深層に位置する解剖学的および臨床的に重要な構造です。この筋肉は姿勢保持、肩甲骨の運動、および頚部の運動に関与し、臨床現場では頚部痛や肩こりの主要な原因として注目されています (Moore et al., 2023)。

J164.png

J0164 (右肩甲骨、筋の起こる所と着く所:前面からの図)

J418.png

J0418 (頚部の筋(第2層):右側からの図)

J419.png

J0419 (頚部の筋(第3層):前方からの図)

J420.png

J0420 (頚部の筋(第3層):右側からの図)

J425.png

J0425 (右側の斜角筋:右側からの図)

J430.png

J0430 (右の前鋸筋(外側鋸筋):外側およびやや腹側からの図)

J449.png

J0449 (広い背中の筋(第2層):背面図)

J454.png

J0454 (頚部の筋(左:第2層、右:第3層):背面図)

J572.png

J0572 (右の鎖骨下動脈:右側からの図)

J609.png

J0609 (頚部の深部静脈:右側からの図)

J923.png

J0923 (頚部の右迷走神経:右側からの図)

J929.png

J0929 (右側の頚神経叢と腕神経叢:模式図)

J930.png

J0930 (右の頚神経叢の枝:右側からの図)

J932.png

J0932 (右側の腕神経叢とその短い枝:前面からの図)

J933.png

J0933 (右肩甲骨の神経:後方からの図)

1. 解剖学的特徴

起始と走行

肩甲挙筋は上位4つの頚椎(C1-C4)の横突起後結節から起始します (Standring, 2021)。各頚椎からの筋束は独立して起こり、下行しながら徐々に集束して1つの筋腹を形成します。筋束は頚部深層を斜め下外側方向に走行し、僧帽筋と胸鎖乳突筋の深層に位置します (Drake et al., 2020)。

具体的には、C1-C2レベルでは短い腱様の線維として起始し、C3-C4レベルではより長い筋線維として起こります。これらの筋束は下行するにつれて幅を広げ、肩甲骨に向かって扇状に展開します (Palastanga and Soames, 2019)。

停止部

肩甲骨の上角(superior angle)および内側縁上部(肩甲棘レベルより上方の内側縁)に停止します。停止部は扇状に広がり、強固な腱膜として付着します (Drake et al., 2020)。停止腱は肩甲骨の骨膜と密接に結合し、肩甲骨の安定性に寄与しています。

停止部の面積は約2-3cm²で、菱形筋と部分的に重なり合いながら付着します。この解剖学的配置により、肩甲挙筋は肩甲骨の上方回転と内側安定化の両方に関与することができます (Neumann, 2020)。

神経支配

肩甲挙筋の神経支配は複雑で、主に頚神経後枝のC3、C4神経根から直接枝を受けます (Netter, 2023)。これらの神経枝は頚椎の横突起レベルで筋肉に進入し、筋腹全体に分布します。

また、約60-70%の症例において、背側肩甲神経(dorsal scapular nerve, C5由来)からの神経支配も受けます (Standring, 2021)。この二重神経支配のパターンは、肩甲挙筋の機能的重要性を反映しており、一つの神経が損傷を受けても機能が完全に失われないという利点があります。

臨床的には、頚神経根症(特にC3-C4レベル)や背側肩甲神経の絞扼により、肩甲挙筋の機能障害が生じる可能性があります (Moore et al., 2023)。

血管支配

肩甲挙筋への血液供給は複数の動脈源から行われます:

静脈還流は同名の静脈を通じて行われ、最終的に椎骨静脈叢および外頚静脈系に流入します (Drake et al., 2020)。この豊富な血管供給により、肩甲挙筋は持続的な姿勢保持活動に必要な代謝要求を満たすことができます。