舌骨下筋;舌骨下筋群 Musculi infrahyoidei
舌骨下筋(舌骨下筋群)は、頸部前面の浅層にある重要な筋肉群です。解剖学的および機能的に密接に関連した4つの筋肉から構成されており、位置的に「strap muscles(帯状筋)」とも呼ばれます (Standring, 2021)。
解剖学的特徴
- 位置と走行:頸部前面の皮下組織と頸筋膜の深層に位置し、舌骨より下方に存在します (Drake et al., 2020)。
- 構成筋:以下の4つの筋肉から構成されます:
- 胸骨舌骨筋 (M. sternohyoideus):胸骨柄と鎖骨内側端から起始し、舌骨体に停止する細長い筋肉。
- 肩甲舌骨筋 (M. omohyoideus):肩甲骨上縁から起始し、中間腱で屈曲した後、舌骨体外側部に停止する二腹筋。
- 胸骨甲状筋 (M. sternothyroideus):胸骨柄と第1肋軟骨から起始し、甲状軟骨の斜線に停止します。
- 甲状舌骨筋 (M. thyrohyoideus):甲状軟骨の斜線から起始し、舌骨大角と体部に停止します (Moore et al., 2022)。
- 神経支配:頸神経ワナ (ansa cervicalis) により支配されます (Netter, 2019)。
- 上根:舌下神経 (CN XII) の下行枝で、主に甲状舌骨筋を支配します。
- 下根:頸神経叢 (C1-C3) からの線維で、残りの舌骨下筋を支配します。
- 発生:発生学的には咽頭弓筋由来で、腹側縦筋系に分類されます (Sadler, 2019)。
- 筋膜関係:浅頸筋膜の浅葉と深葉の間に位置し、肩甲舌骨筋の中間腱は頸筋膜深葉に付着します (Standring, 2021)。
機能
- 舌骨の固定と下制:頭部の位置に関わらず舌骨を安定させます (Drake et al., 2020)。
- 喉頭の下制:発声時やいびき時などに喉頭を下方に引きます (Simonyan and Horwitz, 2018)。
- 嚥下時:第二相(咽頭相)で舌骨と喉頭の位置調整に関与します (Matsuo and Palmer, 2015)。
- 発声:喉頭の位置調整により声の調節に寄与します (Zhang, 2019)。
臨床的意義
- 頸部手術における重要なランドマーク:特に甲状腺手術や頸部郭清術において指標となります (Mohebati and Shah, 2018)。
- 嚥下障害:舌骨下筋群の機能不全は嚥下困難を引き起こす可能性があります (Kendall et al., 2017)。
- 発声障害:これらの筋肉の麻痺は声の質や強さに影響を与えます (Hirano and Bless, 2017)。
- 頸部外傷:鈍的外傷により舌骨下筋群の損傷が生じることがあります (Kemp et al., 2016)。
- 頸部リンパ節郭清術後の合併症:手術による神経損傷で舌骨下筋群の機能障害が生じることがあります (Robbins et al., 2018)。
解剖学的変異