外側翼突筋 Musculus pterygoideus lateralis
外側翼突筋は咀嚼筋群の中で最も複雑な機能を持つ筋の一つであり、顎関節の運動制御において中心的な役割を果たしています (Okeson, 2020)。この筋肉の解剖学的構造、神経支配、機能、および臨床的意義について詳細に解説します。

J0065 (下顎の右半分、筋の起こる所と着く所:内側からの図)

J0081 (外頭蓋底:筋の起こる所と着く所を示す図)

J0413 (右側の翼突筋:外側からの図)

J0414 (右側の咀嚼筋、背側からやや内側からの図)

J0562 (頭蓋と鼻腔の動脈、右半分、内側からの図)

J0896 (左大脳半球外側面)

J0912 (右の下顎神経の分岐、浅層)

J0913 (下顎神経の分岐、深層:右方からの図)
1. 解剖学的特徴
1.1 構造的特徴と二頭構造
外側翼突筋は上頭(superior head)と下頭(inferior head)の二つの異なる機能的ユニットから構成されています (Standring, 2021):
- 上頭(上腹、Superior belly):
- 比較的小さい筋束で構成される
- 主に顎関節円板との機能的連結に特化
- 関節の微細な運動制御に関与
- 筋線維は水平方向に配列
- 下頭(下腹、Inferior belly):
- より大きく強力な筋束を持つ
- 下顎骨の前方・側方運動を主導
- 咀嚼時の力強い運動に貢献
- 筋線維はやや斜め上方に配列
1.2 起始部の詳細
外側翼突筋の起始は以下の骨構造から広範囲にわたります (Norton, 2023; Drake et al., 2020):
- 上頭の起始:
- 蝶形骨大翼の下面(側頭下面、infratemporal surface)
- 側頭下稜(infratemporal crest)の内側部
- 翼状突起の上部外側面
- 起始面積:約150-200 mm²
- 下頭の起始:
- 蝶形骨翼状突起外側板の外側面全体
- 上顎結節(maxillary tuberosity)の後面
- 口蓋骨錐体突起の一部
- 起始面積:約300-400 mm²で上頭より広い
1.3 停止部の詳細
停止部の構造は上頭と下頭で明確に異なり、それぞれ独自の機能的意義を持ちます (Norton, 2023; Alomar et al., 2007):
- 上頭の停止:
- 顎関節円板の前内側部(anterior-medial aspect)に主に付着
- 関節包の前上部にも線維性結合
- 下顎頚(mandibular neck)の前面にも一部付着
- 付着様式:腱様構造ではなく筋線維が直接付着
- 円板との結合は約60-70%の症例で確認される
- 下頭の停止:
- 下顎骨関節突起(condylar process)前面の翼突筋窩(pterygoid fovea)に集中的に停止
- 停止面積:直径約8-12 mmの楕円形の窩
- 短い腱を介して停止する場合と筋性に直接停止する場合がある
- 停止部の骨表面は粗造で筋付着に適した構造
1.4 筋の寸法と形態
- 全体の長さ:約40-50 mm(個人差あり)
- 上頭の厚さ:約5-8 mm
- 下頭の厚さ:約8-12 mm