側頭筋 Musculus temporalis
側頭筋は、頭蓋骨の側頭窩から起始し、側頭下窩を通過して下顎骨の筋突起(烏口突起)に停止する大型の扇状咀嚼筋である。側頭窩は側頭線(上側頭線と下側頭線)より下方に位置し、側頭骨鱗部、頭頂骨、前頭骨、蝶形骨大翼の側頭面によって構成される (Gray and Lewis, 2024; Standring, 2023)。

J0064 (下顎の右半分、筋の起こる所と着く所:外側からの図)

J0065 (下顎の右半分、筋の起こる所と着く所:内側からの図)

J0077 (頭蓋骨、筋の起こる所と着く所:右方からの図)

J0079 (頭蓋骨、筋の起こる所と着く所を示す:前面からの図)

J0411 (右側の側頭筋膜と咬筋)

J0412 (側頭筋と頬筋:右側からの図)

J0611 (顔の深部静脈:右側からの図)

J0912 (右の下顎神経の分岐、浅層)

J1006 (眼窩の内容物:上方からの図)

J1027 (右外耳道に垂直な断面:前方からの図)

J1028 (右外耳道の水平断面:上方からの図)
解剖学的構造
起始と停止
- 起始:側頭窩の骨面および深部の側頭筋膜の内面から起始する。側頭窩は下側頭線によって上方を境界とされ、頬骨弓によって下方を境界とされる (Standring, 2023)。
- 停止:筋線維は下方に収束しながら頬骨弓の深部を通過し、強靭な腱を形成して下顎骨の筋突起(coronoid process)の前縁、内側面、外側面、および下顎枝前縁に停止する (Moore et al., 2024)。
- 一部の筋線維は下顎枝の側面にも付着し、頬筋稜の後方まで延びることがある (Netter, 2023)。
筋線維の走行と構造
- 側頭筋の筋線維は放射状に配列しており、その走行は部位によって異なる:
- 前部線維:ほぼ垂直方向に下行する
- 中部線維:斜め後下方に走行する
- 後部線維:ほぼ水平方向に前方へ走行する (Norton, 2023)
- この多方向性の筋線維配列により、側頭筋は下顎骨の挙上だけでなく、後方牽引にも寄与できる構造となっている (Okeson, 2023)。
- 側頭筋は二層構造を示し、表層と深層で筋線維の走行がやや異なる場合がある (Standring, 2023)。
筋膜と周囲構造
- 側頭筋膜(temporal fascia)は強靭な深部筋膜で、側頭筋を覆っている。この筋膜は上方では側頭線に付着し、下方では頬骨弓の上縁で浅葉と深葉の二層に分かれる (Standring, 2023)。
- 側頭筋膜と頬骨弓の間には脂肪組織が存在し、この脂肪層は加齢とともに萎縮することがある。
- 側頭筋は外側から側頭筋膜に覆われ、内側では側頭窩の骨面に直接接している。
- 側頭筋の下方では、咬筋と隣接し、両者は協調して咀嚼運動を行う (Norton, 2023)。
神経支配
- 側頭筋は三叉神経(CN V)の第3枝である下顎神経から分岐する深側頭神経(deep temporal nerves)によって支配される (Netter, 2023)。
- 深側頭神経は通常2〜3本存在し、前深側頭神経、中深側頭神経、後深側頭神経として側頭筋の内側面に進入する (Standring, 2023)。