口角挙筋 Musculus levator anguli oris

口角挙筋は、顔面の表情筋群に属する筋肉で、口角を持ち上げる重要な役割を担っています（Standring, 2020）。この筋は、犬歯筋（Musculus caninus）とも呼ばれ、表情形成、特に笑顔の表出において中心的な役割を果たしています。以下に、解剖学的特徴、機能、臨床的意義について詳細に解説します。

J0077 (頭蓋骨、筋の起こる所と着く所：右方からの図)

J0079 (頭蓋骨、筋の起こる所と着く所を示す：前面からの図)

J0081 (外頭蓋底：筋の起こる所と着く所を示す図)

J0405 (頭部の浅層筋：少し右側からの図)

J0409 (口領域の深層筋、少し右方からの図)

J0410 (口周りの筋：背面からの図)

解剖学的特徴

起始と停止

• 起始：上顎骨の犬歯窩（Fossa canina）から起始します。この窩は眼窩下孔（Foramen infraorbitale）の下方約1cmに位置し、上顎犬歯の根尖部直上に相当します（Drake et al., 2019）。
• 停止：筋線維は下内側方向に走行し、口角部（Modiolus）で口輪筋（Orbicularis oris）、大頬骨筋（Zygomaticus major）、口角下制筋（Depressor anguli oris）などの線維と交差しながら、口角および上唇の皮膚に停止します（Moore et al., 2018）。

形態学的特徴

• 形態：口角挙筋は、四角形ないし三角形の平坦な筋で、起始部は幅広く、停止部に向かって収束します。
• 筋線維の配置：筋線維は主に斜下方に走行し、口角部で他の表情筋と複雑に交差することで、微細な表情変化を可能にしています（Schünke et al., 2018）。
• 深さ：口角挙筋は、大頬骨筋と小頬骨筋の深層に位置し、上顎骨の表面に密着しています。

神経支配

• 顔面神経（第VII脳神経）の頬骨枝（Zygomatic branches）および頬筋枝（Buccal branches）によって支配されています（Netter, 2021）。
• これらの枝は、耳下腺を貫通した後、顔面浅層を走行し、口角挙筋の深面から筋に進入します。
• 顔面神経の走行には個体差があり、外科的処置の際には注意が必要です（Siemionow and Gharb, 2018）。

血液供給

• 主な動脈供給：顔面動脈（Facial artery）の上唇枝（Superior labial artery）および眼角動脈（Angular artery）から分枝を受けます。
• 副次的供給：顔面横動脈（Transverse facial artery）および眼窩下動脈（Infraorbital artery）からも栄養を受けます（Standring, 2020）。
• 静脈還流：顔面静脈（Facial vein）およびその支流を介して行われます。

機能